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名経営者 小林一三・岩切章太郎の経営に学ぶ その3

事業成功の神髄

次々に新規事業を手がけて成功に導いた阪急・東宝グループの創始者 小林一三だけに、閃き型の経営者だと思われがちだが、その実は違う。
前回書いたように、小林は、現実の中に将来の事業の種を見いだすタイプの経営者なのだが、種を見つけて事業化するまでにも独自の考えがあった。

小林一三は、「事業成功の神髄は」と問われたときに、次のように答えている。

「何事にも軽率に着手しないこと。着手するまでに十分考えて、いよいよ着手しても良いと確信するに至っても、なお一度静かに考え直してしばらく冷静に思案する事、そしてまた初めから新しく立案して、それでいよいよ着手する事。着手した以上は猛然として進む事。要するに事業経営の神髄は予備行為、準備行為に十分の用意をする事であると思う。すなわち、基礎に重きを置く事である」

終着駅に立地する、いわゆる「ターミナル百貨店」を世界で最初に事業化(前回参照)したのが小林だが、このときにも予備・準備行為に十二分に時間を割いている。

現在の阪急百貨店が営業を開始したのは昭和4年のことだが、その準備は、大正9年から始めている。当時、阪急電鉄神戸線の終着駅梅田(大阪)駅の5階建てビルの一階を白木屋に、売り上げ歩合制で貸して、小売業のテストを始めたのだ。家賃ではなく歩合制にしたのにも理由がある。なぜなら、歩合制にすれば、毎日の売り上げがチェックできるからだ。

前回書いたように、当時の百貨店は、駅とは離れた繁華街にあった。白木屋は繁華街での商売に自信はあったが、駅ビルの中での商売は初めてだった。それだけに、歩合制の方がリスクは少ないと考えて、小林の申し出に応じたのだ。

白木屋の開業と同時に、小林は社内に「マーケット直営研究チーム」を発足させ、毎日の売り上げだけではなく、客数、客層、仕入先等々の調査をさせている。そればかりか、数名の社員を欧米に派遣して、彼の地の百貨店の視察もさせている。

白木屋との契約は大正14年に終わったのだが、いきなり阪急百貨店をスタートさせてはいない。5階建てのビルの一階は入り口とホールにし、四階、五階は食堂、二階で食料品を、三階で洋品雑貨等々のサラリーマン向け洋品を、阪急マーケットの名前で売り出したのだった。
ちなみに、当時繁華街の百貨店は、午前九時開店午後五時閉店が普通だったが、小林はサラリーマンの帰宅時間を考えて、阪急マーケットは、午後九時閉店としていた。

そうした準備期間を持った上で、駅ビルの隣接地に、地上八階地下二階の阪急百貨店をオープンさせたのは昭和四年四月のことだった。
小林は、ホームで繁華街にある百貨店の袋を持つ客を見て、駅での百貨店経営を思いついた(前回参照)。しかし、その思いつきを、小林は即事業化しなかった。準備期間を持って研究に研究を重ねることで、新規事業を成功に導いたのだ。小林は、次のような言葉も残している。

「事業家に欠くべからずは研究心である。眼のつけどころが良いとか、良い着眼だとかいうが、どんなところに眼をつけたって研究しなければだめだ。百貨店の送迎自動車から、電鉄会社のデパート兼営を思いついたとする。思いつきはよいがそれだけではなんにもならない。それを実際に研究してみようという研究心がなければ駄目だ。研究に研究を重ねて、事業の大方針、基礎をしっかりつくる。決して無理はしない。そのかわり、やりかけたなら猛然として突貫する。やりかけてダラダラしていたのでは駄目だ」

一般的に、新規事業はハイリスク・ハイリターンだといわれる。リスクが大きい分リターンも大きいというわけだ。しかしそれでは経営者はいらなくなってしまう。たしかに、新規事業にリスクは伴うが、それを少しでも少なくするためには、事前準備と研究が不可欠だと、小林は教えてくれているのだ。ただし、いつまでも研究ばかりしていたのでは駄目なことを小林が指摘していることも忘れないでほしい。

著者プロフィール

疋田 文明(ひきた ふみあき)
有限会社 ABO
経営コンサルタント・元気塾主宰
日本交通公社(JTB)勤務後、中小企業経営者を対象とした各種セミナーの企画・運営会社等々を経て、1979年に竹村健一未来経営研究会を企画設立し事務局長に就任。1986年に竹村健一氏のもとから独立。現在、フリーランスのライターとして活躍中。
http://www.hikita10.jp

[2009年8月14日 掲載]


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