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名経営者 小林一三・岩切章太郎の経営に学ぶ その1
ワーク・ライフバランスの元祖的経営者
筆者はお目にかかったことはないのだが、若い頃から非常に興味を持っていた経営者が二人いる。ひとりは、阪急・東宝グループの創始者である小林一三さん。もうひとりは、宮崎を日本一の観光地に仕上げた岩切章太郎さんだ。今回から数回にわたって、二人の経営を紹介したい。
明治6年生まれの小林さんに明治26年生まれの岩切さん。お二人の自伝等々を読む限り、仕事での接点はないように思えるが共通項は実に多くある。何より筆者が高く評価するのは、お二人がともに社員に対して優しい目を持っていたところにある。
小林さんは、気が短くよく怒鳴り「雷親父」と称されたと聞く。一方の岩切さんは、仏教の勉強会を主催するなど慈父のようなタイプで、性格は全くといっていいほど異なっていたようだが、社員を大事にしたことでは共通している。
小林さんは、昭和初めの大不況の時に、月給70円以下の社員は生活が苦しいだろうということで、ほかでは徹底した節約を指示しながら、彼等の給料を一割五分上げている。
岩切さんは、「ハイウエッジ・ローコスト」との考えを持っていた。ウエッジというのは賃金のことで、生産コストを下げて得た利益を賃金として還元しようとの考えだ。
小林さんの阪急・東宝グループも岩切さんの宮崎交通グループも、終戦直後のドサクサの中で大労働争議が起きた。ストライキも頻繁に起こっていたのだが、その後は、労働争議、ストライキが一度も起きていない交通機関だ。労使が協調できていたのも、二人の社員に対する優しさがあったからだ。
本連載の49回目で、筆者は、ヘンリー・フォードの「繁栄分配計画」を紹介したが、社員を豊かにすることが、企業、社会を豊かにすると考えた先達の経営者が日本にもいたことを、是非皆さんにも知っておいていただきたいものだ。
小林さん、岩切さんに筆者が魅力を感じるのは、お二人とも仕事オンリーではなかったからだ。茶人でもあった小林さんは、逸翁という号を持っておられる。「逸」には、「ほしいまま」「ぬきんでる」という意があるが、まさにこの「号」が小林さんの人間性を象徴している。
いま盛んに、仕事と生活のバランスを重視することが大事だといわれているが、小林さんはその先駆者でもある。社員に対しては、常に次のようにいっていた。
「青年はいかなる仕事に就くとも、その仕事に意義を見出せ。仕事を通じて人類の生活のいかなるものかを考えよ。事務の合理化に努めよ。そして勤務時間以外は、心気転換のために各々好む所に走るがいい」(私の行き方)
小林さんのこの発言は昭和3年1月にされたものだが、ワーク・ライフバランスの原点そのものではないか。
経営者の多くは効率を高めろという。それは小林さんも同じだ。しかし、先発言に見られるように、小林さんは、合理的に仕事を処理して、残業などせずに、勤務時間以外は自分のために時間を使えといっているのだ。
岩切さんも仕事オンリーではなく、自ら小唄、端唄を嗜み、演芸も楽しんだという。筆者が魅力を感じる所以はこうしたところにあるのだ。
次回から、お二人が具体的にどのような経営を実践してきたかについて書いていく。
著者プロフィール
疋田 文明(ひきた ふみあき)
有限会社 ABO
経営コンサルタント・元気塾主宰- 日本交通公社(JTB)勤務後、中小企業経営者を対象とした各種セミナーの企画・運営会社等々を経て、1979年に竹村健一未来経営研究会を企画設立し事務局長に就任。1986年に竹村健一氏のもとから独立。現在、フリーランスのライターとして活躍中。
http://www.hikita10.jp
[2009年6月11日 掲載]
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