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『常識的な経済合理性』の追求で持続的成長を

なぜ人材が疲弊するのか

企業経営で何より大事なのが、経済合理性の追求だ。しかし、どんな素晴らしい取り組みも行き過ぎれば弊害が出てくる。人事面にまで経済合理性を求めることの是非を問う。

小型直流モーターで世界一のマブチモーターの馬渕隆一会長に、高収益の秘密を問うたときの答えは以下のようなものであった。

「いまだに、少機種大量生産にこだわり続けていることがよかったと思います」

ものづくりの世界では、20数年も前から、多様化するニーズに応えるために、さらにはより付加価値を高める意味で、多品種少量生産への移行が説かれていた。そんな風潮の中で、馬渕会長は、まったく逆だからよかったというのだ。なぜなのか。

「最終製品をつくるのなら、多品種少量生産を指向します。しかし、私どもがつくっているのは、商品の中に組み込まれる機能性部品です。機能性部品の場合、お客様が求めるのは、性能と納期と価格です。安くつくるには、大量生産が一番いいのです。経済合理性を追求していけば自ずと、少機種大量生産にいきつくのです」

ところが、経営者の多くは、経営の世界の流行めいたものに惑わされてしまう。世の中が多様化だ、高付加価値だといえばいうほど、自社もその方向を目指さないといけないと考えてしまうのだ。

経営のあり方に流行はない。自社の顧客にとって最適なものを提供するのが企業の役割だ。マブチの顧客がより低価格を求めているとすれば、より安くつくることにチャレンジすればいいだけのこと。より安くつくるためには、経済合理性にもとづいて歩むべき道を選択すればいいだけのことなのだ。

経済合理性を徹底的に追求することで、優良企業になった最たる例はトヨタ自動車だろう。トヨタ生産方式は、「企業の中からあらゆる種類のムダを徹底的に排除して生産効率を高める」と説いた上で、摘出すべきムダとして以下の七つをあげている。

  1. つくりすぎのムダ
  2. 手持ちのムダ
  3. 運搬のムダ
  4. 加工そのもののムダ
  5. 在庫のムダ
  6. 動作のムダ
  7. 不良を作るムダ

ムダの排除は、経済合理性の追求に他ならない。

マブチとトヨタが優良企業に成り得たのは、真摯に経済合理性を追求してきた結果といってもいいだろう。筆者は、企業が持続的に成長するためには、基盤に経済合理性の追求がなければならないと考えているのだが、最近気になることがある。それは、過度の経済合理性に走る企業が増えていることだ。

どんな素晴らしい取り組みでも、行き過ぎると必ず弊害がでてくるものだ。最近の企業は経済合理性を追求するあまり、余裕がなくなってきている。とりわけ、人事面にも経済合理性を求め続けた結果、人材が疲弊してきているように思える。

ものづくりの現場に詳しい藤本隆宏東京大学教授は、戦後日本で成長してきたものづくり企業の強さの理由のひとつに、『常識的な経済合理性の追求』をあげている。それが、「長期雇用・長期取引」に結びつき、結果、ごく自然に、強い組織能力を共有するようになったと指摘しているのだが、まさにその通りだと思う。

ところが、バブル崩壊後の日本企業の多くは、『常識的な域』を超え、『徹底した経済合理性の追求』に走ってしまったのだ。

経営の現場においてはアウトプットばかりが評価の対象となり、真面目に働くだけでは評価されなくなってしまった。これでは真面目な人ほど疲弊してしまう。

「企業は人なり」は、永遠の真理だ。その人が疲弊したのでは、企業は持続的に成長することは出来ない。「経済合理性の追求」は常識的であってほしいものだ。

著者プロフィール

疋田 文明(ひきた ふみあき)
有限会社 ABO
経営コンサルタント・元気塾主宰
日本交通公社(JTB)勤務後、中小企業経営者を対象とした各種セミナーの企画・運営会社等々を経て、1979年に竹村健一未来経営研究会を企画設立し事務局長に就任。1986年に竹村健一氏のもとから独立。現在、フリーランスのライターとして活躍中。
http://www.hikita10.jp

[2008年3月13日 掲載]


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