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中国の古典『貞観政要』に学ぶ…その2

創業と守成いずれか難き

前回紹介した『貞観政要』(中国・唐の太宗と部下との言行をまとめた本)に学びたいところを今回も――。『貞観政要』の中で、日本人にもっともよく知られているのは、貞観10年に太宗が投げかけた「帝王の業、草創(創業)と守文(守成)といずれか難き」の問いだろうが、その答はあまり知られていない。太宗が信頼を寄せていた側近ふたりの答はいかなるものだったのか。

宰相の房玄齢は次のように答えている

「国家創業の当時には、天下が乱れ群雄が先を争って各地に割拠しており、それらの強敵を攻撃して打ち破っては降参させ、戦争に勝ってやっと平らげました。こういう命懸けの困難な点から申しますれば、創業が困難だと思います」

魏徴の答えは違った。

「帝王の地位を得てしまった後は、志向がかえって気ままになります。人民たちは、安静な生活を希望しているのに、労役がやむことなく、人民たちがへとへとに弱りはてていても、帝王の贅沢な仕事は休止することがありません。国が衰えて破滅するのは、常にこういう原因から起こります。この点からいいますれば、完成されたものを維持していくというほうが困難でございます」

二人の話にはそれぞれ一理ある。房玄齢は、太宗に従って、創業の困難を体験しているだけに、その厳しさがわかる。魏徴は、天下を安定させることの難しさを、身をもって体験しているだけに、守成が困難だというのだ。

太宗は、そう理解したうえで、「すでに創業の困難は過ぎ去ってしまったのだから、守成の困難さを思って、公等といっしょに、慎んで取り組んでいきたい」と宣言したのだ。

守成の困難さを理解していたはずの太宗だが、貞観15年に、「天下を守ること難きや易きや」と、同じ質問をしている。

当時、宰相に昇格していた魏徴の答えは変わりなく、「甚だ難し」だった。

その言を受けて、太宗は反問した。

「賢者能者を政務に任じさせ、(臣下の厳しい)忠告を聞き納れればよろしいでないか。どうして困難というのであるか」

魏徴は次のように答えている。

「古来からの帝王を観察しまするに、国家の憂危の際においては、賢者を任用し、諌めを受け納れます。が、一たび平和になり安楽になりますと、必ず寛怠(緩み怠る心)を欲するようになります。君主が寛怠を欲すようになれば、その心に逆らってはいけないと思って、諌める者もいなくなってしまい、ついには国家の危亡を招くようになります。昔の聖人が国家の安らかなときにも、いつも危難のときを思って緊張していたのは、正しくこれがためであります。ですから、安らかでありながら大いに警戒しなければなりません。どうして困難でないといえましょうや」

これは企業経営でも同じことが言える。
かつては成功を手にした企業が、あえなく破綻する例は枚挙に暇がない。なぜ、成功した企業が衰退してしまうのか。それは、トップが知らず知らずに「寛怠を欲す」るようになるからだ。では寛怠を欲しないためにはどうすればいいのか。魏徴は、「安きに居りて危うきを忘れない」ことだというのだが、まさに同感だ。

持続的成長を手にした企業に共通するのは、「いいときに慢心せずに次なる手をうった」ところなのだ。

年商1180億円で80億円の営業利益をあげる沖縄の総合スーパー『サンエー』は、12期連続増収増益だが、その原動力になっているのが「いいときの危機意識」だ。サンエーには、「いいときにこそ危ないと思え」との教えがある。「安きに居りて危うきを思う」精神が、企業を持続的に成長させるのだ。いま絶好調のトヨタ自動車の張会長が、幹部社員に『貞観政要』をすすめるのも、いまだからこそ、『健全な危機意識』をもって欲しいと願ってのことだと思える。

著者プロフィール

疋田 文明(ひきた ふみあき)
有限会社 ABO
経営コンサルタント・元気塾主宰
日本交通公社(JTB)勤務後、中小企業経営者を対象とした各種セミナーの企画・運営会社等々を経て、1979年に竹村健一未来経営研究会を企画設立し事務局長に就任。1986年に竹村健一氏のもとから独立。現在、フリーランスのライターとして活躍中。
http://www.hikita10.jp

[2007年10月11日 掲載]


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