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接客力は教育だけでは身につかない

サービスからホスピタリティへ

流通業やサービス産業においては、一流企業、二流企業の差は、「接客の質」の差によって決まる時代になったといってもいいだろう。では、どうすれば接客力を高めることができるのか。接客において、最も重要視される笑顔を例に検証してみたい。

今は亡き藤田田さんは、筆者にマクドナルドの店頭での一番の武器は「アルバイトの笑顔」だと話されたことがある。笑顔の後に、「ご一緒にコーラはいかがですか」と続けると3分の一は注文してくれるともいっていた。それほどに笑顔の効用は大きいのだが、これは教育だけで出来るものではないのだ。

「笑顔と共にご一緒に…といいなさい」ということは教えることができる。しかし、笑顔は教えてできるものではない。かつて、マクドナルドのトレーニング部部長に次のように聞かされた。

「笑い方なんて絶対に教えないですよ。テクニカルなことで笑わせようというのは絶対に無理だと思います。笑顔を出させる最大の秘訣は、アルバイトの人たちに仕事の面白さを教えることだと思います。マクドナルドの出店条件の一つに、アルバイトの人たちが休憩できる専用の『クルールーム』の設置があります。ここは学校のクラブ活動に近い状態で、休憩時間には勉強をしたり、仕事上の相談をしたりしています」

『クルールーム』での楽しい語らいがあって、仕事がより楽しめるようになることで、心からの笑顔がでてくるというのだ。

マクドナルドのマニュアル教育には定評がある。しかし、マニュアルへの依存度は驚くほどに低い。先のトレーニング部長は、「マニュアルなんかほとんど覚えていないですよ。といったらおかしいが、マニュアルには最低限のことしか書いていないのです。確かに入ってすぐの頃にはマニュアルで仕事を覚えてもらいますが、後はできるだけ自分で考えろということです」という。

ところが、最近「接客」に目を向ける経営者の多くが、マニュアルと教育で接客レベルが上がると考えているように思えるのだが、いかがなものか。

帝国ホテルの宴会サービス部をへて、いまは関連会社・ニューサービスシステムの常務を務めている山口勝さんの「サービスの質向上」についての指摘は興味深い。

「いまは、サービスという言葉では、顧客の期待を上回る接客はできないのではないでしょうか。帝国ホテルにもマニュアルはあります。これは、先輩やベテランの頭脳や身体に体験として蓄積されたものを、分かりやすく明記したものです。ひとつの仕事を、正確に迅速に行なう上では、参考になるものです。しかし、マニュアル通りでは、サービスを提供しているに過ぎません。私はいま、サービスを超えたものとして、ホスピタリティあふれた接客をし、あの人がいるから帝国ホテルに泊まりたい、あの人にあいたいから帝国ホテルにいきたい、といわれるようなって欲しい、と社員には話しています」

ホスピタリティとは、「歓待、歓迎、温かいもてなし」といった意味があるが、これらは心がこもっていないとできない。マニュアルでいかに教育しようともホスピタリティは出てこないのだ。

最近、山口さんの元に、百貨店を初めとして、大手の流通企業や自動車ディーラー等々から、話を聞かせて欲しいとの依頼が増えるばかりだと聞く。いくらいい商品も並べておくだけでは売れなくなってきた。サービス業ばかりでなく、物販業においても、一流企業、二流企業の差は、「接客の質」の差によって決まる時代になったのだ。

顧客と直接接点の持てる接客は、『顧客の真の要望』を知る絶好の機会でもある。それだけに、接客に重きをおかない企業は勝ち残れないということも付け加えておきたい。

著者プロフィール

疋田 文明(ひきた ふみあき)
有限会社 ABO
経営コンサルタント・元気塾主宰
日本交通公社(JTB)勤務後、中小企業経営者を対象とした各種セミナーの企画・運営会社等々を経て、1979年に竹村健一未来経営研究会を企画設立し事務局長に就任。1986年に竹村健一氏のもとから独立。現在、フリーランスのライターとして活躍中。
http://www.hikita10.jp

[2007年8月9日 掲載]


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