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『加賀屋』(和倉温泉)、27年連続日本一の秘密に迫る

作業から解放して質の高いサービスを提供

和倉温泉の『加賀屋』が、「プロが選ぶ日本のホテル旅館百選」で27年連続日本一に選ばれた。宿泊者が異口同音に「感動した」というほどの『加賀屋』の質の高いサービスはどのようにして生まれてきたのか。その軌跡を振り返りながら、人気の秘密に迫ってみたい。

昨年、創業100年を迎えた『加賀屋』の創業時の姿は、今とは比べ物にならないほどに粗末なものだった。開湯1200年を誇る和倉温泉で16軒目の旅館としてスタートをきった『加賀屋』の客室数は、わずかに12室だった。そんな『加賀屋』が日本一になれたのは、設備面でハンディを背負ってのスタートだったからだと筆者は考えている。

部屋、設備面で他の旅館に劣っているとすれば、縁あって『加賀屋』に泊まって頂いたお客様には、サービスと料理でご満足頂くしかない――これが、『加賀屋』の創業以来の姿勢だ。それだけに、客室係教育は厳しかった。

あまりの厳しさに、客室係が仕事を放棄し、部屋からでてこないようなこともあった。そんなときは、身内の人たちが夜もほとんど寝ないで働いたという。「客室係は宝」を信条としていた『加賀屋』にとって、これほどのショックもなかった。しかし、この客室係のストライキ騒ぎが、『加賀屋』を強くしたともいえるのだから、面白い。

小田禎彦会長は、「旅館業は矛盾ばかり」だという。顧客満足度を高めようとおもえば従業員に犠牲を強いることになる。20時間労働が当たり前のような世界だけに、まずは身内が中心となって働かざるを得ない。しかし、そこには自ずと限界がある。そんな旅館業が持つ宿命を禎彦会長は次のように説明する。

「旅館では、目の届かない部屋の中でサービスが行われることが多いのです。それだけに、見ているところではやるが、見てないところでは手を抜く社員では困ります。見ていないところでも、とにかく誠心誠意、一生懸命やってもらうには、社員との間に心が通じていなければなりません。『やれ、やれ』というだけではできないのです。社員の身内が亡くなれば、お通夜、葬儀にお参りして手を取り合って泣いたり、子供が入学したと聞くと、時計をプレゼントしたり、そういうことが大事なんですね。みんな自分が一番かわいいだけに、自分の立場で物事を考えてくれる、泣いてくれる、そういう人を頼っていこうというのは当然なんですね。社員満足度を高めることを、早い時期からやってきたことがよかったのではないかと思います」

客室係の仕事は接客だけではない。厨房からお膳を各部屋にまで運ぶという体力勝負の仕事もあるのだ。配膳作業は、時間も取られるし、体力も消耗する。その上で、笑顔でのベタベタサービスとなると、自ずと限界もある。そこで加賀屋が、昭和56年に新しい宿泊棟(能登渚亭・180室1000名収容)の開業するに際してとった策は、自動配膳搬送システムの導入だった。

料理を調理場から各階に自動的に搬送するシステムによって、客室係はその時間の大半を接客サービスに割けるようになったが、取った策は、それだけではない。

「ハイテク、ハイタッチとでもいえばいいのでしょうか。ハードが整備されたことで、客室係は疲れることもなく、にこやかにお客様にサービスできるようになりました。しかし、問題はありました。子供抱えて働く女性が多いのですが、子供のことが気になるとサービスに専念できません。そこで、昭和61年には、子供を抱えていてもしっかりやっていけるようにと、企業内保育園付き母子寮の『カンガルーハウス』をつくり、子供たちにも喜びを与えられるようにしました」

『加賀屋』がいまでも労働集約型であることは変わりない。しかし、『加賀屋』が違うのは、その労働力が作業にではなく、サービスの質向上に向けられているところにある。だからこそ、日本一の称号を手にすることができるのだ。

著者プロフィール

疋田 文明(ひきた ふみあき)
有限会社 ABO
経営コンサルタント・元気塾主宰
日本交通公社(JTB)勤務後、中小企業経営者を対象とした各種セミナーの企画・運営会社等々を経て、1979年に竹村健一未来経営研究会を企画設立し事務局長に就任。1986年に竹村健一氏のもとから独立。現在、フリーランスのライターとして活躍中。
http://www.hikita10.jp

[2007年4月12日 掲載]


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