第6回 全部取得条項付種類株式の活用
数年前、J2リーグ所属の某サッカーチームの母体である会社が、経営危機解消のため「100%消却(減資)」によるスポンサー支援を企図し、途中で断念して「99%消却を目指す」とマスコミを賑わせたことがありました(結局は99%消却も断念したようですが)。
これは、株主全員の同意を必須とする当時の法解釈が由縁の出来事ですが、会社法においては、新たに創設された全部取得条項付種類株式を利用することにより、(株主全員の同意を要せず)特別決議によって同様のことを行うことができるようになりました。
全部取得条項付種類株式が登場する具体的な場面の例としては、以下のものが挙げられます。
- 企業再生におけるスポンサー支援のための株主総入替え
本制度が創設されたきっかけとなった活用法です。 - 敵対的買収に対する防衛策
立法担当官が紹介した活用法ですが、中小企業の経営にはお目にかからない例でしょうし、公開企業であっても適切な活用法とは言い難いです。 - 株式交換税制回避策としての株式交換類似行為
実例としては、首都圏を軸に焼肉店やコンビニなど飲食店展開している某会社のMBOにおいて活用されてもいます。 - 旧商法の人的分割と同等の行為
会社の一部門を売却したい場合や、会社を相続により取得した兄弟間の争いの解消など、旧商法で人的分割(分割型分割)を行う際に活用されます。 - 名義株主の整理
名義だけ借りて会社を設立してしまった場合や、名義株主の相続の発生等によって縁のない株主が出現してしまった場合など、個別に買取交渉をまとめることが困難なときに活用できます。
以上はあくまで一例ですので、他にも相応な場面はあるかもしれません。ただし、どのような場面でも濫用的な利用と認定されないように注意しておかなければなりません。法制審議会会社法部会の審議過程における案では、「正当な理由」という制約があったものの、結果として、やむを得ず削除して立法されたという経緯があります。しかし、今や、特別決議さえ得て、株式買取請求に応じれば、会社にとって都合の悪い少数株主を容易に排除できるものとして宣伝されがちのようです。
法制審議会の審議過程を記す議事録を見ると、「恐らく,文言には書いてなくても,正当事由は要るのでしょうね。」「…一定の合理的な理由がなければ何らかの瑕疵を帯びる可能性はありますので,その部分についてはやはりいずれにしても一般条項は残っていくということになります。」などと、「正当な理由」を解釈上要求するような記載もあり、また、学説の中には、正に「正当な事業目的」といった制約をかける必要があるとする見解もあります。
この辺は、実際に紛争となって裁判例が現れないことには、結論は見出せないのですが、本人が納得していないにもかかわらず強制的にそれを奪うという非常に特殊な制度ですので、事例によっては裁判で覆ることもあるかもしれません。したがって、その利用には慎重さを要するでしょう。また、当然ながら税制回避策として利用する場合などは税務の動向にも注視しておく必要があります。
最後に。「少なくともこれだけは」というものを6回に亘って記載して参りました。紙面の都合もあり消化不良のところもあったかと思いますが、一つでも驚きや発見があれば幸いです。またどこかでお会いできれば。
司法書士 関口 高
[2007年4月12日 掲載]
