少子高齢化・人口減少時代の経営学
第2回 シニア市場の商品・サービスの切り口
企業はこれまで新商品や新サービスを企画する際には、中心購買層を10代後半から50代前半という就業年齢層にターゲットを絞って行ってきました。しかし前回のコラムでもご説明したように、これからは高齢者層がそのボリュームと購買力から無視できない存在となってきます。既に実際の消費の現場においては、50代以上のシニア層による購買力の高さが目に付くようになってきています。図1は年齢層別の1ヶ月の消費内訳に関する調査結果ですが、50代を境に大きく金額が増えていることが見て取れます。

このように、既に消費の主役に躍り出てきているシニア層を対象とした商品やサービスを企画する際には、従来とは異なる着眼点が必要となってくることは言うまでもありません。
シニア層の消費行動を理解する4つの切り口
シニア層の消費行動を考える際には、ぜひ次の4つの視点を持ちましょう。

- エイジング : 年齢を重ねることによって発生する身体的な変化への対応
- コーホート : 世代のこと。価値観や好みに大きな影響を与える
- ライフステージ : シニア期という新たなライフステージへの対応
- コミュニティー : 生活環境が大きく変化し新たな社会関係の構築が求められる
それではこの4つの視点を、ひとつずつ検討していきましょう。
1.エイジング
エイジングに着目した商品・サービスのコンセプトは大きく2つに分けられます。
アンチ・エイジング
身体的な能力や肌、反射神経の衰えに対抗することを打ち出していくコンセプトです。わかりやすく言えば「年齢に負けない」「いつまでも若々しく」あるための商品やサービスを提供していく、という考え方です。特に団塊の世代においては、自分たちが高齢者であるという意識は低く、いつまでも若くありたい、活動的でいたいというニーズが強くあります。
近年、このアンチ・エイジングのコンセプトを前面に出すことで新たな顧客層を開拓することに成功している企業として、再春館製薬所が挙げられます。同社の基礎化粧品である「ドモホルンリンクル」は、テレビCMを活用した直販制度と無料の試供品提供により売上を伸ばしてきたベストセラー商品です。アンチ・エイジングを「肌年齢」というコピーで訴求したこと、および従来CMで強調していた品質管理手法も環境志向・自然志向のシニア層の共感を呼び、新たな顧客層の拡大につながってきています。
エイジ・フリー
年齢に抵抗するのではなく、それを受け止めつつも「老い」を感じさせないようにする、というコンセプトです。ユニバーサルデザインといわれる身体的に負荷のかからないデザインコンセプトの拡がりや、クールビズに端を発した大人のカジュアル衣料などがこれにあたります。チョイ悪オヤジのコンセプトなども同様です。
デザインなどにおいて、「高齢者用」という固定観念で商品開発を行わない点に成功のカギがあります。
2.コーホート
世代体験は物事のとらえ方や好みなどに大きな影響を与えます。特にシニア市場の中核となってくる団塊の世代は、これまでのシニア層とは異なる豊かな世代体験を持っています。
コーホートに着目した商品・サービスコンセプトとしては、次の2つが代表的です。
ノスタルジー
「台場一丁目商店街」、「ナムコナンジャタウン」などに代表される昭和30年代の街並みを再現した商業施設、映画「All Ways 三丁目の夕日」のヒットなどは、団塊の世代よりも少し上の世代のノスタルジーを刺激するコンセプトに彩られています。大昔ではなく、少し昔の懐かしさ。
飲料メーカーのダイドードリンコが04年から展開している「復刻堂シリーズ」はまさにこのノスタルジーを基本コンセプトとして展開している商品ブランドです。新商品開発によるラインナップ拡大が常識である業界において、あえてかつての商品を数量限定生産して投入することで消費者のノスタルジーを喚起し、今では同社の主力ラインナップに成長しています。復刻堂シリーズでは、昭和40年代に発売した商品をひとまとめにすることで、個々の商品が持っている「ほんの少しだけ懐かしい感覚」を「あの時代の懐かしさ」にまで高めた点がコンセプトとして優れていると言えます。
実際、私自身もその時代に少年期を過ごしましたので、自販機などで見かけるとつい手が伸びてしまいますし、飲めば夏休みの思い出などもよみがえってきます。
若い頃の夢
これからのシニア世代は、日本の消費者で初めて多様な価値観にさらされた世代です。当時は金銭面や時間的制約であきらめてしまったことも、時間的・金銭的余裕のできた今なら可能です。
若い頃にビートルズやフォークなどに影響され、かつて一度は楽器演奏にあこがれた現在の50代以上を対象として展開しているのがヤマハの「ヤマハ大人の音楽レッスン」です。このレッスンでは単に楽器演奏を学ぶだけでなく、バンド活動の発表の場としてのイベントを年間を通じて開催し、人前で演奏をしてみたいという夢までもサポートすることで会員数を増加させています。
3.ライフステージ
従来のシニア観においては、リタイヤ後は「老後」という捉え方が主流でした。しかし、長寿化が進んだ我が国では、リタイヤは「セカンドライフ」という新たなライフステージへの取り組み時期である、と企業は提案すべきです。
人生の収穫期
これまで会社勤めなどで自由を持てなかったシニア層に対し、新たな人生の選択肢を提供する、あるいは新たな取り組みをサポートする、というコンセプトです。シニア起業家へのサポートや定年帰農への支援、生涯現役であるための企業OBに特化した人材派遣など、新たなサービスが生まれつつあります。
一例として、技術系の企業OBを組織化し、新規事業や研究開発成果の技術評価などを行っている「ベンチャーラボ」という企業では、このような人生の収穫期に入り、自分たちが培ってきたノウハウを、企業という枠組みを離れこれからのベンチャー育成に役立てたいというシニア人材が数多くメンバーとして登録し活動しています。
安定した老後
一方では、今後一層進む長寿化に対して、将来に備えるためのビジネスも盛り上がってきています。安定した金融収益を確保するための資産運用サービス、予防医療に向けての動きが鮮明な医療業界などは、長期的な高齢化社会を見越した取り組みです。
4.コミュニティー
特に男性にとって、リタイヤするということは、勤務先という社会との接点を失うことを意味します。日常生活の中心も、勤務先から地域へと劇的に変化します。この点に着目し、新たな社会との接点を提供していく動きも顕著になりつつあります。事実、最近のボランティア活動への参加目的が「社会への貢献」から「同じ興味を持つ人々との交流」に変化しつつある、という調査結果も存在します。
新たなコミュニティーの形成
特定のコンセプトを強く打ち出すことで、同じ趣味や価値観を持った人々のコミュニティーを消費の現場に作り上げようという動きが出てきています。社会人大学やカルチャーセンターといったリアルなコミュニティーだけではなく、深夜ラジオに視聴対象者をシニアとする「人生“私”流」「深夜便アーカイブ」といった番組内容を提供することで、メディア上にシニアのコミュニティーを打ち立てつつあるNHKの「ラジオ深夜便」、さらには「50歳未満お断り」という会員登録基準で明確なコンセプトを打ち出している「ぐるなびシニア」のようなバーチャル上でのコミュニティーなど、さまざまなコミュニティーが生まれつつあります。当然消費やサービスの現場である店舗そのものも、今後はコミュニティー形成の場として機能していくものと思われます。
中堅企業の皆さんがシニア向けの商品・サービスを企画する際には、ターゲットを明確化することも重要ですが、それ以上に大切なのは、先に挙げた成功事例のように「なにを提供するのか」というコンセプトの明確化である、と考えるべきでしょう。
次回は、いよいよ本格化する就業人口の減少時代の到来を受けて、企業が成長を持続させていくためにはどのような経営手法を用いる必要があるのかを考察するとともに、新たな成長分野としてどのようなビジネスが考えられるのかについて解説していきます。
著者プロフィール
西村 健一
エヌ・コンサルタンツ 代表取締役- 1962年生まれ 大阪府出身、同志社大学法学部卒 中小企業診断士
証券会社にて中堅・ベンチャー企業のIPOに向けての育成指導や事業戦略策定、システム開発プロジェクトのマネジメントなどを経験後、国内独立系コンサルティング会社に入社。取締役東京代表を務めた後、東京事務所をMBOし2002年エヌ・コンサルタンツ設立。
通信会社や電力会社などにおける社内起業家制度の運営支援、大手ケミカル会社での新規事業進出計画策定支援、製薬会社における中期事業計画策定支援など、新規事業関連での実績多数。近年は研究機関での技術シーズの産業化などにも注力している。
シニア市場に関しては、2001年に公的機関における研究会のコーディネータに任ぜられて以降、一貫してコンサルティングに取り組んでいる。
著書「中堅企業・中小企業の経営革新・事業転換戦略構築法」(平原社刊)
http://www.n-cons.com
[2007年10月11日 掲載]
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