生産管理改革【実践編】
「売れているのに儲からないのはどうして?」
-適正コストの算出方法-
製品価格は年々下がる
家電量販店でパソコンやデジタルカメラ、DVDなどを見ていると製品の性能は向上しているのに、価格は安くなっていることに驚かされることがあります。
これは消費者にとって非常に喜ばしいことなのですが、製造企業にとっては厳しいコストダウンを要求されることを意味しています。つまり、今日100円で売れていた製品が、明日には90円でないと売れないと言うことになるからです。
さらに、それらの製品を製造している企業だけでなく、製品に使われる部品を作る企業にも厳しいコストダウンを要求するものです。製造企業は、このような経営環境の中でコストダウンを図りながら、利益の獲得を図っていくことを考えなければなりません。
販売価格の中には、どんな費用が含まれている?
製造企業では、製品を販売することによって収入を得ています(売上高)。図のように製品A(売価1000円)を100個販売すれば、10万円の売上になります。同様に製品B(売価1500円)を80個(12万円)、製品C(売価1800円)を150個(27万円)・・・・・。これらの製品の販売合計金額が、売上高です。
これに対して製品を作り、販売するための支出が発生します(費用)。製品を作るためには、材料や部品が必要であり、加工するための設備機械や、その機械を動かす作業者、電力なども必要です。また販売するために営業マンや広告が必要であり、製品を納入するための運送、さらには総務・経理などの社員、パソコンや電話などの事務機器があります。これらすべてが費用です。そして、売上高から費用を差し引いた残りが利益となります。
では、製品の売価はどのようにして決められているのでしょうか。
原価計算では充分ではない!
ここでまず考えられるのが、原価計算です。しかし、原価計算は、作った実績に基づいて算出されるものです。このため、製品を作ってから利益が出ているか否かを判断することになり、後からコストダウンを図って利益を確保するという対策になってしまいます。また、作ったことの無い新製品や新工法を採用する場合には、原価計算を用いて製品原価を算出することも困難です。
さらに、原価計算は、法律や法令に準拠しなければならず、簡略化を認めています。例えば、同じ機械でも能力や性能の違いから生じる設備費用の差が、原価計算では均一に扱われてしまいます。本来、高い機械には高いなりに、安い機械は安いなりの設備費用を割り当てて製品の原価を算出しなければならないのですが、ドンブリ勘定になってしまうことになります。これは、原価計算が、収益性を高めるための道具ではないからです。
製造業において行われている一般的なコスト見積もりの方法は、「KKD法」「原単位手法」「科学的手法」に大別することができますが、それぞれについて、コストをどう算出しているか見ていきましょう。
エイヤーっと気合いで決める「KKD法」
KKD法とは、「経験・勘・度胸」の3つの頭文字を取って名づけられたもので、作業を経験したことのある社員が、これまでの経験や勘をもとにコストを決める方法です。理論的な裏付けの乏しい予想であり“エイヤー”と度胸で決めてしまう世界です。したがって、製品を見積もる担当者によって加工時間が大きく異ってくるのはもちろん、同じ担当者であっても、仕事の忙しい時と余裕のある時で違う見積もりになるといったことが起こってしまいます。また、従来からこの金額で決まっている、誰かから教わったなど、現実的ではない金額を設定していることもあります。
部品の重量などで決める「原単位手法」
つぎの原単位手法は、製品や部品の重量や面積などの原単位をもとにコスト算出する方法で、よく使われるのがkg当たり価格やm2当たりの価格です。また、鋼板に穴をあける時に、穴1個を10円などと決めて10個あるから100円と算出するのもこの方法の一つです。
原単位手法の場合、金額で表示されるため時間がどのように設定されているのか分かりません。しかし、本来原単位手法の金額を設定も、何らかの条件のもとに加工時間が決められたはずなのですが、それがどのように算出された時間なのか、その作業条件が現在も適合しているのかなどは不明です。
さらに、鋼板にドリルで穴をあける場合に、板厚が2mmと10mmでは加工時間は異なります。また、穴径が5mmと30mmでは、加工時間が異なるだけでなく、機械も変わりますので単位時間あたり費用も違ってきます。それなのに、ドリルであける穴は1個10円などと決めているのは、明らかにおかしいといえます。
これら2つの見積もり方法では、「本来これで作れる」という見込みを、全く意味の無いものにしてしまう可能性があります。つまり、作ってみてからでないと儲かるかどうか分からないということになってしまうのです。これでは、「売れているのに儲からない」ことになっても仕方のないことです。
しっかりとした裏付けを持つ「科学的手法」
そもそも製品の売価は、会社でその製品を作るために発生したすべての費用が割り付けられていなければなりません。その構成内容は、調達する原材料や部品などの材料費、社内で製品に変換するための加工費、製品を売るための販売費、製品開発のための開発費、会社を運営するための管理費、そして会社の利益などがあります。つまり、売価=材料費+加工費+一般管理・販売費+利益からなるのです。
これは、売価=材料費+加工費×(1+一般管理・販売費比率)×(1+利益率)に置き換えることができます。さらに詳しく分解すると、材料費は、調達する材料の単価(材料単価)と製品に使う量を表す材料使用量から構成され、加工費は、原材料や部品を製品に変換するため必要な加工時間と、単位時間当たりの加工費(加工費率)から構成されます。そして、チャージやレート、単金、賃率などの中身は、この単位時間当たりの加工費(加工費率)に一般管理・販売費と利益を含んだ金額でなくてはなりません。
さらに、製品の移動や客先への納入をするにあたって、製品1台をトラックで遠距離を輸送するような、売価に対して運送費用の割合が高い場合には、販売費に含めるのではなく、運賃として個別に考える必要があります。また、金型や専用機械、専用治工具などは、特定の製品だけに用いられます。この費用も、製品ごとに捉えていく必要があります。
加工費も理論的に考える
加工費=加工時間×加工費率で表されることを述べましたが、さらに詳しく考えていきます。
加工時間は、製品を作るための作業に必要な時間のことで、大きく2つの時間から構成されています。まず一つは、直接作業する時間であり、もう一つがロス時間で設備機械の稼働率や作業者の能率、歩留まりなどによるロスのことです。さらに直接作業する時間は、標準時間(作業標準に基づき設定される時間で、その作業にかけるべき時間)と段取り時間になります。標準時間は、実際に加工や作業をする正味加工時間と、朝礼や作業打ち合わせなどのための一般余裕時間があります。これは、標準作業時間(あるいは標準時間)=正味加工時間×(1+一般余裕率)で表せます。
正味加工時間は、機械を用いて作業をしているのであれば、機械の加工する時間と作業者が材料の取り付け、完成品の取り外しなどをしている手扱い時間、不定期に発生する付帯作業時間から構成されます。加工時間の算出とは、これらの構成内容に対して、理論的・科学的に時間を設定することなのです。
次に加工費率(単位時間当たり加工費)について考えます。
加工費率は、製品を作るために必要な設備機械の費用と、作業者に関連する費用に大別することができます。設備機械の費用は、購入した設備機械や建物の償却費と、設備機械を動かすための電力や燃料などの動力費に分けられます。一方、作業者に関しては、製品を直接作る直接作業者と、作業者を支援する間接作業者の労務費に分けることができます。これらの構成要素について、自社の基準を設定するのです。
設計段階からコストをしっかり考える
さらに収益性を高めるためには、製品や部品を作る前のコストを見積もる技術が非常に重要になります。これだけ価格競争が激しい時代では、設計者にもしっかりとしたコスト意識がなくては、収益は見込めません。最近では、コストを見積もる技術を活用して、製品開発段階(フロント・デザイン)でのコストの作り込みの重要性が叫ばれ、どのように具体化するかが検討されるようになっています(フロント・コスト・デザイン)。製品の開発段階でしっかりと採算性を考え、無駄な部品を省いたり材料の標準化を図り、利益の確保を目指していくのです。
単なる価格比較は、本来のコストダウンではない!
また、コスト見積もりでは、よく用いられる方法に相見積もりがあります。つまり、A社、B社、C社と数社から見積もりを取り、もっとも安価な見積もりを採用するものです。この方法は、限られた取引先を対象にしたものであって、それ以外の企業でもっと安価に購入できる機会を逃すことになるかもしれません。
このような単なる価格の比較ではなく、理論的・科学的に裏付けされたコストを用いることによって、材料費や加工費、加工時間などを現状のコスト情報と比較することができます。「本来これで作れる」はずだが現状ではできていない。その原因がどこにあるのか、どこを改善すべきかを見つけ出し、改善を進めることができれば、コストを下げられるということを理解しなければなりません。
ある機械メーカーX社では、厳しい価格競争に伴い、顧客から大幅なコストダウンを要求されていました。X社では、製造原価に占める調達費の割合が大きいことから、取引先に対してコストダウンを実施しました。その方法は、取引先に集まってもらい、経営幹部の方が10%一律での値引き依頼をするという従来のやり方です。そして、その結果は、大きく期待を裏切るものとなりました。
この背景には、取引先がX社に対して持っていた不信感がありました。見積もりを提出すると、取引先ではX社から高圧的に何の理由も無く金額が高いといって値引き要求をされるだけでした。さらに、定期的なコストダウンの依頼があり、値下げできないと再三に渡り値引き要求をされるのです。このため取引先では、値引き要求を予想して、それだけ上乗せした価格を設定しX社に提示していたのです。
しかしX社はこれを見直し、科学的手法によるコスト算出方法を導入し、見積もり金額の査定・評価を進めることにしました。同時に、取引先にもコスト算出方法を公開しました。その結果相互に信頼関係が生まれ、従来とは異なり、どのようにすればコストダウンが図れるのかとの提案が取引先から提出されるようになり、取引先自身も自社のコスト改善を意識するようになったのです。こうしてコストダウンを効率よく進めることができるようになり、裏付けのない定期的なコストダウン要求もやめることになりました。

まずは自社の現状をしっかり把握しよう!
さてこの第1回では、理論的裏づけを持つ科学的手法を身に付けることの重要性を考えてきました。しかし、実際の製造現場では、なかなかそこまで行っていないのが現実でしょう。製品や部品をつくるために「どれだけの時間が必要であるのか」(標準時間)を設定することもさることながら、「実際にどれだけの時間を費やしたのか」(実績時間)さえ、正確に把握できていない企業もあります。
標準時間は、自社の生産現場での作業の手順・内容・条件などを正確に知ることから始まります。また、実績時間は、実際に作業に費やした時間をしっかりと報告することから始めなければなりません。これらの時間を正確に把握することが、原価を知ることになります。そのために欠くことのできないツールが「生産管理システム」です。ITを上手く使えば、予定原価や実際原価を迅速かつ正確に算出することができます。詳しい解説は第2回以降に委ねますが、現状の生産現場をきちんと知ることこそが、全てのスタートラインとなります。
そして、科学的手法により算出された見積もりコスト(予定原価)と、自社の現状からはじき出した実際原価の差異が、「なぜ発生するのか」、「その原因は何か」を追求し、コスト改善を繰り返していくのです。それが自社の現状を見据えた、コストダウンの重要なポイントと言えるのではないでしょうか。
著者プロフィール
中井 克紀- 1988年 株式会社富士通関西システムエンジニアリング(現富士通関西システムズ)入社
以来、一貫して国内外の製造業ユーザ様におけるシステムサポートを担当
GLOVIA-Cアプリケーションコンサルタント(生産管理・原価管理)
今までに経験したお客様業種と原価管理:
・一般機械・金属等の組立・加工業(ロット生産・個別生産)
・鋼管製品製造業(総合原価計算)
・プラスチック成形品製造業(海外サポート)
・映像装置関連製造業(個別原価管理)
・化学・配合関連の製品製造業、等
・GLOVIA-C生産情報PRONESの原価管理システム開発に従事
趣味:旅行、サイクリング、映画、イラスト、等
座右の銘:人の和が大事
[2005年8月11日 掲載]
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