「海外進出」
第2回 あなたの会社にとって最適な進出先はどこか
前回は、GDP、人口、制度からみた有望な市場となりうる国について紹介しました。今回は、これらの国々について、どのような進出方法が向いているのかを具体的に紹介していきます。
BRICs諸国
BRICsとは、ブラジル、ロシア、インド、中国の頭文字をとって付けられた言葉です。2003年10月にアメリカの大手証券会社のゴールドマン・サックスが出した「BRICsとともに夢見る:2050年への道」というレポートの中で使われ、よく用いられるようになりました。
この4カ国に共通するのは、国土が広く、人口が多く、鉱物資源が豊富で、経済発展が急速に進むと予想される国々だという点です。まさに、将来の有望な市場となりうるのがこの4カ国なのです。この4カ国についてみていきましょう。
(1) 中国
13億人と世界1位の人口を抱え、GDP成長率が9%と経済発展も著しく、非常に市場として有望な国です。特に上海、深センなどの沿岸都市部の所得は急速に向上しています。高額所得者も増えているため、高い質を売り物にした高級品を販売することも可能です。
中国には、すでに多くの日本企業が進出し、現地生産を行っています。賃金が安く、かつ、優秀な労働力が豊富にあることがメリットでしたが、賃金は上昇しており、ASEAN諸国の方が賃金の面ではメリットがあります。とはいえ、日本に比較すると賃金は低く、依然として労働力を活用するメリットはあります。
中国との貿易は増え続けています。2005年の日本からの輸出総額は804億ドルで、品目とそのシェア(カッコ内)は、以下のとおりです(ジェトロ資料より)。
電気機器(25.9%)、一般機械(21.2%)、化学製品(13.0%)、金属及び同製品(10.6%)、精密機器(5.3%)
特に2005年に増加したのは、VTR(デジタルカメラ・ビデオカメラ:昨年比285%増)、原動機(前年比32%増)、非鉄金属(前年比30%増)、金属加工機械(前年比16%増)などとなっています。
中国における課題は、日本との政治的な関係、一人っ子政策による高齢化、農村と都市部の所得格差などです。
中国については、次回、より詳しく説明します。
(2) インド
11億人と世界2位の人口を占め、人口増加率も今後10年間で年平均1.3%とさらに増え続けています。中国のような高齢化の心配もなく、2030年頃には中国を抜いて世界1位の人口となると予想されています。
GDPは世界14位ですが、一人当たりGDPは732ドルと日本の50分の1に過ぎません。しかし、貧富の差が大きく、一般消費財を購入できる人口は3億人程度いると言われており、市場としても長期的には重要になってくるでしょう。
1991年の経済自由化以降、急速に発展しています。中国から約10年遅れていると言われていますが、長期的には中国に追いつくことでしょう。
GDPに占める割合は、農業が20%、鉱工業が22%、サービス業が58%と、サービス業が大きく発展しています。特に、安価で理数系に強い優秀な労働力を背景にソフトウェア産業をはじめとしたIT産業が盛んで、総輸出の約20%(2003年)を占めています。特に南部のバンガロールはIT産業の一大拠点となっており、インドのシリコンバレーと呼ばれています。
今後の人口増を踏まえ、雇用機会を提供する製造業の発展が期待されており、自動車部品、電機、輸送機器等が発展してきています。
日本からの輸出は徐々に伸びており、2004年で30億ドルとなっています。
インフラが未整備、許認可手続きが煩雑、外資比率制限などが課題となっています。
(3) ロシア
約1.4億人(世界第7位)の人口がいますが、人口は減少しています。
GDPは世界10位で、年6%の高い成長をしています。一人当たりGDPは6,554ドルで、日本の約6分の1です。
石油、天然ガス、石炭など鉱物資源を豊富に持っています。特に石油・天然ガスはGDPの約25%を占め、大きく依存していることが課題ともなっています。
旧ソ連時代の高い科学技術の基盤があるため、今後は、航空機・宇宙・軍事産業などの機械工業やソフトウェア産業の発展が期待されています。
日本からの輸出額は急速に伸びており、2004年は対前年比109%増の39億ドル(ジェトロ資料より)で、輸出品目は、乗用車(57%)、建設用・鉱山用機械(5%)、鉄鋼(5%)、バス・トラック(4%)、映像用機器(4%)と、完成品の輸出が多くなっています。
(4) ブラジル
約1.9億人(世界第5位)の人口を抱え、GDPは世界11位、一人当たりGDPは4,752ドルと、日本の約8分の1です。特に鉄鉱石などの鉱物資源に恵まれています。
1908年から日本人が移民し、現在、150万人ほどの日系人がいます。1970年代に急速に工業化を遂げましたが、1980年代はインフレに悩まされ、成長率は低迷しました。1990年代後半から対外経済開放へ政策転換したり構造改革を実行したりしたことで、輸出が拡大し、経済が拡大しつつあります。
日本からの進出している企業は約400社程度で、自動車会社や自動車部品会社などが代表的です。日本からの輸出は年々増え続けていて、2005年は34億ドルとなっており、主に自動車部品、半導体、化学品等を輸出しています。自動車の国内販売台数は171万台(2005年)と、日本の約30%程度です。
課題はGDPの60%に相当する公的債務ですが、プライマリー・バランスは黒字化し、債務残高は減ってきています。
ASEAN諸国
ASEAN(東南アジア諸国連合)は、タイ、フィリピン、インドネシア、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、ベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジアの計10カ国からなります。
人口増加が著しい地域ですが、1国あたりの市場規模は、現在はそれほど大きくなく、2006年の予想GDPではインドネシアの26位(2929億ドル)が最高です。また、一人当たりGDPもそれほど高くなく、シンガポールは27,840ドル(世界23位)と別格ですが、それ以外ではマレーシアの5,440ドル(世界63位)が最高です。そのため、市場としては現在はあまり有望ではありません。
しかし、非常に安価で優秀な労働力が入手可能なことから、生産拠点として注目されています。産業研究所の「東アジア諸国の投資環境の現状と問題点に関する調査研究」の現地法人による評価によりますと、現時点ではタイ、マレーシアが投資環境として優れているとされています。また、今後の投資先としては、ベトナムが非常に期待されており、特に、労働力のコスト・質で高い評価がされています。
また、シンガポールとは2002年にFTAが発効しており、フィリピン・マレーシア・タイとはFTAに大筋合意しているため、スムーズに輸出ができる点もメリットです。
その他
その他に注目の国として、トルコとメキシコを取り上げます。
(1) トルコ
7300万人(2005年)と世界17位の人口を持ち、今後10年間で年平均1.2%の人口増加が予想されています。
2006年の予想GDPは世界17位で、年平均6.3%と高い成長を続けています。そのため、今後の市場としても有望です。
日本からの輸出は27億ドル(2004年)と前年比39%の高い伸びを示しています。
自動車産業が盛んで、日本の自動車メーカーの進出が進んでいます。また、日本からの輸出品目も自動車部品が増えています。
非常に親日的な国であるという点も有利に働きそうです。
(2) メキシコ
1.1億人(2005年)と世界11位の人口を持ち、今後10年間も年平均1.1%の人口増加が予想されています。
2006年の予想GDPは韓国に次いで13位で、年平均3.6%の成長を続けています。そのため、市場としても非常に有望です。
日本からの輸出は106億ドル(2004年)と大きく、前年比40%の高い伸びを示しています。日本からは、自動車、テレビ・ラジオ部品、自動車部品などを主に輸出しています。2005年4月に日本との間にFTAが発効したため、今後ますます貿易が盛んになると予想されます。
1897年から1万名ほど日本から移民したことなどもあり、親日的な国です。
まとめ
有望な市場となりうる国々について説明しましたが、国別に有望度を以下のようにまとめました。次回は、最も有望な中国への進出方法を詳しく解説します。
| 市場 有望度 |
輸出 有望度 |
現地生産 有望度 |
親日度 | コメント | |
|---|---|---|---|---|---|
| 中国 | ◎ | ◎ | ◎ | × | 市場としても今後は重要 |
| インド | ○ (長期的には◎) |
△ | ○ | ○ | 長期的に非常に有望な市場 |
| ロシア | △ (長期的には○) |
○ | △ | △ | 今後は、機械工業やソフトウェア産業の発展が期待 |
| ブラジル | △ (長期的には○) |
△ | ○ | ○ | 主に輸送機械部品関係が有望 |
| ASEAN | △ | ○ | ◎ | ○ | 市場というよりは、輸出用製品の生産に向いている |
| トルコ | △ (長期的には○) |
○ | ○ | ◎ | 主に輸送機械部品関係が有望 |
| メキシコ | ○ | ○ | ○ | ○ | 主に輸送機械部品関係が有望 |
著者プロフィール
小島 琢矢(こじま たくや)
小島経営研究所 代表- 1970年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 博士課程修了。博士(学術)。チェスの1993年世界青年(U-26)チーム選手権では 日本代表キャプテンを務めた。大学院、NTT基礎研究所では、コンピュータ囲碁の研究を行う。その後、NTTコミュニケーションズ(株)に移り、マーケティング、経営企画などを担当。
2005年3月に独立し、現在、経営コンサルタントとして、コンサルティング業務、講演、各種執筆を行っている。専門は、ブルーオーシャン戦略、経営品質向上プログラム、マーケティング、内部統制、リーダーシップなど。
著書:「ポケット図解 新会社法がよ~くわかる本」(秀和システム) (2005年11月出版)
http://www.kojima-keiei.biz-web.jp
[2006年4月3日 掲載]
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