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コンプライアンスの“かたちと心”
第3回 「身近なところから始めよう」

先日コンプライアンスに関する勉強会の中で、セクハラに関する会話が話題になった。
「部下が職場の雰囲気に合わないセクシーな格好をしてきたときにどう注意したらいいのか?」とか「部下の女性をお酒に誘うときの言い方はどうしたらいいのか?」等々だ。
注意する場合は上司の態度とか言い回し、あるいは目のやり場とか様々に配慮しなければならないという意見が出ていた。「相手の受け取り方によっては問題ですね」という女性の方の意見もあった。
実際の現場となると中々微妙で難しい問題を含むが、このようにコンプライアンスの問題は、日々の何でもないシーンでも表れてくる。こんなこともある。
「会社の消しゴムやボールペン等の備品を拝借する」「社用車を私用に使う」「違法コピー」「白紙の領収書をもらう(渡す)」などだ。ほんの些細なところでも、その人の姿勢は勿論、企業自体の姿勢、コンプライアンスに対する意識、倫理観が見られたりする。
白紙の領収書の例などは、注意しないと相手の脱税に協力していることになりかねない。それは架空経費(損金)を計上して、税金を免れようとしている可能性があるからである。
往々にして、親しい関係にあるほどこうしたことが日常的に行われがちだ。親しき仲にも礼儀ありだ。こうした「ちょっとくらい」という意識が社内や取引関係に蔓延してしまうと、大きな不祥事にも発展しかねない。まさに小事が大事だ。
では、このような身近なことや小事に対してどのようにコンプライアンスの意識を喚起していったらいいのだろうか?日ごろからの教育、研修は勿論だが、一つの対策としてわかりやすいコンプライアンス宣言も効果的だ。
ここでは以前私が取材させていただいた、浜崎あゆみなどの著名歌手が所属するエイベックス・グループ・ホールディングス株式会社の「新・コンプライアンス・ポリシー」(2005年4月11日公表)を抜粋・要約しながらご紹介してみたい。

新・コンプライアンス・ポリシー

インチキするな。

1. 公正、透明、自由な企業間競争を行う。

  • 同業者間や業界団体で、商品又は役務の価格、生産量等についての協議・取り決めをしない。
  • 同業者間や業界団体で共同して、特定の事業者や新規事業参入者との取引を拒絶しない。

2. 会社の正当な利益に反して、自己や第三者の利益を図るような行為を行わない。

  • 会社と従業員との取引や、会社と従業員の友人・親族とのとりひきは、会社の正式な手続きを経ない限り行わない。
  • 領収書を改ざんしたり、会計帳簿に虚偽又は架空の記載をしたり、簿外の資産を築かない。
  • サンプルCD・DVD・ノベリティや会社の備品を個人で使用したり、売ったりしない。

弱いものイジメするな。

1. 従業員の人権を尊重し、差別につながる行為を行わない。

  • 職務権限などの背景に部下に対して無理難題の強要、私生活への介入等のパワーハラスメントをしない。
  • 職務権限などを利用して、性的な嫌がらせをすること等のセクシャルハラスメントをしない。

2. 取引先に対しては、良識と誠実さをもって接し、公平かつ公正に扱う。

  • 下請け業者や取引先への支払を無理に遅らせたり、契約を突然キャンセルしない。
  • 下請け業者や取引先から無理な協力を要請したり協賛金をとらない。

人の金で遊ぶな。

1. 取引先等と健全な商慣習や社会的常識を逸脱した交際をしない。

  • 会社の経費で遊ばない。
  • 取引先との間で、一般社会的な常識の範囲から逸脱する接待・贈答をしない。
  • 過度な接待やバックマージンを受けるなどして取引先にたからない。

ウソつくな。

勘違いするな。

無駄使いするな。

環境問題の重要性を認識し、会社の資産は有効に活用する。

  • 不必要なサンプルCD・DVD・ノベリティを大量に作らない。
  • 無駄な資料を大量に印刷しない。
  • 他人の時間を無駄にしない。

真似ても盗むな。

1. 自社の知的財産権を保護し、他者の知的財産権を尊重する。

2. 営業活動において、不正な手段は用いない。

「力」に頼るな。

1. 市民社会の秩序や安全に脅威を与える反社会的勢力及び団体との関係を持たない。

2. 政治、行政と透明度が高い関係を構築する。

  • 政治家や役人に賄賂を渡さない。

抜け駆けするな。

1. 仲間に支えられている自分、仲間を支えている自分を意識する。

  • 自分だけの手柄にしない。

2. インサイダー取引をしてはならない。

仲間を裏切るな。

1. 信用・信頼・名誉を損なう行動や発言をしない。

  • お客様・お取引先・株主・同僚・アーティスト・タレント・クリエイター等からの信頼を守る。

2. 企業秘密・個人情報は適切に管理し、無断で会社外に開示・漏洩しない。

  • 自社及び他社の企業秘密は適切に管理して、予期せぬ漏洩を防止する。
  • 自社の保有する個人情報は、適切に管理して、許された利用目的以外の目的には使用しない。

チームとしての誇りを。

1. 従業員が働きやすい職場環境を実現する。

  • 意味のない過度な労働、残業を強いるような業務の押し付けはしない。

そして、才能に愛と賞賛を。(決して嫉妬ではなく)

このように同社のコンプライアンス・ポリシーには、「インチキするな」「弱いものイジメはするな」「人の金で遊ぶな」等とわかりやすい言葉が並んでいる。
企業のコンプライアンス・ポリシーや行動宣言等は、とかく堅い表現になりがちだが、同社の松浦勝人社長は、エイベックスのポリシーは「僕たち自身が本当に納得できる」という内容を身近な表現でまとめたという。
上記のように、ポリシーは12項目で、各項目それぞれに具体的な「べからず集」がついている。最後には、「そして、才能に愛と賞賛を。(決して嫉妬ではなく)」と結んでいる。
エイベックス社のクリエイティブで、若々しい躍動的な雰囲気が伝わってくるようだ。
またこのポリシーには、松浦社長による自社の個性や特徴を踏まえた「前文」もついている。
「・・・・・・そもそもこういうヤツじゃないと一緒に仕事なんかできないよ、・・・・・・。難しく言えば『倫理観』かもしれないが、世の中のルールとか規則に照らして変なものかどうかを真剣に考えた。結論は『全然変じゃない!』・・・・・・」と語っている。

ここでも、松浦社長の熱っぽく熱い思いが肉声で伝わってくるようだ。
そもそもコンプライアンス経営の目的や理念というのは、社会の公器としての企業が、公正・適切な企業活動を通して社会に貢献するということにあった。ここに眼目がある。
だとすれば、それを実現するための仕組みや制度、規定、倫理綱領、行動指針等の様々なルール等のいわば形は、この眼目さえ押さえれば、その企業企業に相応しい言葉でいいはずだ。エイベックス社の言葉を借りれば、『全然変じゃない!』はずだ。
コンプライアンスの意識を高め、全員が実践していくことこそが重要だ。そのためには、社員や関係者に先ず伝わらなければならないし、自社の個性や良さを失ってもいけない。エイベックス・ポリシーは、その一つの方向性を示唆してくれる。
コンプライアンス経営は日本ではまだ新しい概念であり、いわば過渡期ともいえる。が、実際の場での身近な一つ一つ事例を積み重ねて、すべての関与者が納得行くコンプライアンス経営へと進化・実現させていくことが望まれる。
また身近なことに対して、一人ひとりがコンプライアンスはどうなのかと、その意識を特に心して持ち、コンプライアンス経営を推進し、社会を進化させていくことが大切である。

著者プロフィール

皆木和義(みなぎ かずよし)
CSIR総合研究所、皆木アソシエイツ代表
【分野】
経営戦略・計画・組織・人事制度・IPO・企業再生・M&A
【業界】
製造業・消費者向けサービス業・小売・流通・FC
【会社名】
CSIR総合研究所
1953年、岡山県生まれ。早稲田大学法学部卒。成長戦略、IPO、IR、CSR、組織活性化、人財育成を中心とする実践派の経営コンサルタントとして活躍する傍ら、作家として文筆業にも従事。
過去には、稲盛和夫京セラ名誉会長主宰の「盛和塾」や樋口廣太郎アサヒビール元会長を囲む「廣志会」の代表世話人を務めるなど、経済界に広い人脈を持つ。
作家としては、2003年に、「日経ビジネス」に連載した歴史小説「宮本武蔵」が好評を博す。現在「日経ベンチャー」に経済小説の「楽土の商人 小説松下幸之助」を好評連載中。
他に「ビジネス五輪書」(講談社)、「武蔵の学習力」(日経BP社)、「松下幸之助と稲盛和夫」(総合法令出版)、「稲盛和と中村天風」(プレジデント社)、「羊のリーダーで終わるか ライオンリーダーになるか」(中経出版)など著書多数。
minagik@gem.hi-ho.ne.jp

[2006年9月11日 掲載]


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