コンプライアンスの“かたちと心”
第1回 「コンプライアンスとは」
雪印食品、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの不祥事、日本ハムの牛肉偽装問題、三菱自動車のリコール隠し問題、マンション耐震偽装問題、ライブドア事件等と企業の不祥事をあげると枚挙に暇がない。
牛肉偽装事件を引き起こした雪印食品やマンション販売会社などは、不祥事が原因で会社がなくなってしまった。その他の企業でも、売上の大幅な落ち込み、信頼の失墜など、経営に多大な悪影響を及ぼしている。このように企業不祥事が企業に与えるダメージはあまりにも大きい。
そこで、不祥事が起こらないように、日頃から、法令などを遵守してルールを守った企業活動を行うように、社員全員に徹底させることが必要となってくる。
このように、今、企業活動において「コンプライアンス(compliance、法令遵守)」をいかに確保するかが、重要な企業のテーマとなっている。
具体的な取り組みとしては、社内ルールの確立や業務マニュアルの整備などの制度やルールによって、社員の意識をコンプライアンスに向わせる方法論が一般的にとられている。
コンプライアンスは、リスクマネジメント活動としてとらえられている場合もまだ多いようだが、社会からの信頼を高めるための戦略的活動として取り組んでいる企業も増加している。
コンプライアンスは、元々1960年代に米国で独禁法違反、株式のインサイダー取引事件に端を発するといわれているが、complianceの本来の意味は「(命令・要求・規則に)従うこと」である。
そのため、守るべき規範は法律に限らず、社会通念、倫理や道徳を含むと解釈されることも最近では多くなってきている。
たとえば、企業を取り巻く法律や規則ということでは、民法や商法をはじめ独占禁止法、不正競争防止法、労働法、消費者保護法など多数あり、また監督官庁の命令・指導などもある。
さらに加えて、営業活動や市場競争の公正さ、消費者などへの情報公開、職場環境(過労死、セクハラなど)、公務員や政治家との関係、証券市場における取引などの面でも高い企業倫理が求められるようになってきているのである。
そして、企業は、こうした多岐にわたる規則・規範を全役員・従業員が遵守し、不祥事が起こらないようにすると同時に、もし違反行為があった場合には、早期に発見して是正できるマネジメント体制を作ることが求められる。
また、社内ルールなどが、大所高所から法律や社会通念と相反していないかといった第三者的なチェックも重要になってくるだろう。
他方、コンプライアンスは、「お客様」「取引先」「従業員」「株主」「地域社会」といった様々なステークホルダーとの信頼関係を強化し、高い企業価値の獲得を目指す取り組みとしても、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)と関連づけられる。
ただ、各々の企業が人と組織の行動レベルの目標をどこに置くかによって、コンプライアンスの方法論や行動基準や理念等をいかに浸透させていくかのアプローチの仕方は変わってくるだろう。
いずれにせよ、自社の“ありたい姿”に合わせて、自社にとって最適なアプローチをすることが重要である。
では、より具体的なイメージをつかんでいただくために、実際の事例を考えてみよう。ここでは、有力なコンプライアンス先進企業の1社といわれるJT(日本たばこ産業)グループさんの考え方をホームページから一部を引用しながら見てみよう。
JTにおけるコンプライアンスとは
「コンプライアンス」とは、一般的には社会秩序を乱す行動や社会から非難される行動をしないこととされていますが、私たちJTグループにおいては、「コンプライアンス」を単に社会秩序を乱さないというような消極的な意味ではなく、「JTグループミッションを共有し、よりよき企業人、よりよき社会人であるために求められる価値観・倫理観に基づいた行動の実践である」と定義します。
具体的には、以下のレベルI~IVの行動の実践です。
- レベルI
- 法令等(法規範)を遵守した行動
- レベルII
- 社内規則及びマニュアル等(社内規範)を遵守した内部管理・リスクマネジメント的行動
- レベルIII
- 倫理や社会規範等(企業倫理規範)に則した行動
- レベルIV
- JTグループミッション等に適った行動

引用の文章を見て頂ければわかるように、JTさんは、コンプライアンスの原点を踏まえ、同社の“ありたい姿”に合わせて、最適なアプローチ方法を選択されていることが伺える。
以上、コンプライアンスを総論的にみてまいりましたが、何が最も重要かというと、実は「何のためのコンプライアンスなのか」という原点、本質である。
それは、社会の公器として、公正・適切な企業活動を通して、社会に貢献するという目的・理念なのである。
この点を考えるならば、コンプライアンスは、大企業であろうと中堅・中小企業であろうと変わらない不変の真理である。
そして、この原点、本質を実現するために、仕組みや制度、規定、倫理綱領、行動指針等のいわば技術がある。
それゆえ、各々の企業のおかれている状況、ミッション、理念、目的に即して、“ありたい姿”を目指し、この原点を活かして真摯に経営をして頂ければ、立派なコンプライアンス経営といえるのである。
コンプライアンスの軸足をしっかり原点に置き、常にこの原点から出発して、仕組みや制度等を活用して、各々の皆様の企業活動を通して、よりよい成果をあげていただきたいと思う。
著者プロフィール
皆木和義(みなぎ かずよし)
CSIR総合研究所、皆木アソシエイツ代表- 【分野】
経営戦略・計画・組織・人事制度・IPO・企業再生・M&A
【業界】
製造業・消費者向けサービス業・小売・流通・FC
【会社名】
CSIR総合研究所 - 1953年、岡山県生まれ。早稲田大学法学部卒。成長戦略、IPO、IR、CSR、組織活性化、人財育成を中心とする実践派の経営コンサルタントとして活躍する傍ら、作家として文筆業にも従事。
過去には、稲盛和夫京セラ名誉会長主宰の「盛和塾」や樋口廣太郎アサヒビール元会長を囲む「廣志会」の代表世話人を務めるなど、経済界に広い人脈を持つ。
作家としては、2003年に、「日経ビジネス」に連載した歴史小説「宮本武蔵」が好評を博す。現在「日経ベンチャー」に経済小説の「楽土の商人 小説松下幸之助」を好評連載中。
他に「ビジネス五輪書」(講談社)、「武蔵の学習力」(日経BP社)、「松下幸之助と稲盛和夫」(総合法令出版)、「稲盛和と中村天風」(プレジデント社)、「羊のリーダーで終わるか ライオンリーダーになるか」(中経出版)など著書多数。
minagik@gem.hi-ho.ne.jp
[2006年7月13日 掲載]
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