ブランドづくりは信頼づくり
第1回 中堅企業のブランド戦略
そもそも、「ブランド」とは、何か?
「ブランド」の定義はいろいろありますが、実質的には、「その企業の商品やサービス、またはその企業自体を、他社と明確に差別化し、購入や選択の拠り所となるもの」ということができます。
ブランドを媒介するものには、サービスや商品そのものだけでなく、企業や製品を象徴する「ロゴマーク」の場合もありますし、製品の「デザイン」がそれを体現する場合もあります。または実際にサービスを受けた社員の対応や広報・宣伝など、コミュニケーションの質で問われることもあります。結果、ブランドは「信頼」や「ここちよさ」「安心」というような感覚値として、お客様や株主、さらにはそこで働く従業員やその家族など、企業に関係するステークホルダーの心に認知されます。ですから「ブランド」は宣伝費などのコストをたくさん掛けたからといって、一朝一夕に作れるものではありません。
その反面、ブランドを失うのはとても簡単です。たとえば不祥事を起こしてしまった際、その対応次第で今まで築いてきた企業への信頼、製品に対する信用が一夜にして失われることも少なくありません。インターネットの普及も、その傾向にさらに拍車をかけています。今ではほとんどの企業がホームページを持ち、積極的に情報発信をしていますが、企業の情報は自社で開設しているホームページだけに限ったことではありません。検索エンジンで企業名や商品名で検索をかければ、その企業とは関係のない掲示板やコミュニティーで、様々な情報交換が行なわれていることに気がつくでしょう。それらのサイトやマスコミを通して、悪い情報は一瞬にして広まってしまいます。
あるときには強固に顧客の気持ちをつかみ、ある時には一瞬で失う。それほど「ブランド」は繊細なものなのです。
中堅企業こそ「ブランド」を持つ意識が重要
中国をはじめとする海外企業との価格競争やシェア争いは激化し、多くの業界で市場での大幅な需要の伸びを見込めない状況が続いています。社内に目を転じれば、潤沢な広告宣伝予算もない。そんな中でも、「業界認知度が高い」「顧客・業界からの信頼が高い」企業は存在しています。
では、中堅企業はどのようにブランド形成を行い、市場優位性を築いていけばよいのでしょうか?大規模な広報宣伝ができないだけに、実際のサービスや製品を通してお客様に「共感」を持ってもらい、良さを認識してもらうという場合がほとんどです。そのため、ある企業では積極的に自社の製品やサービスに対する印象をお客様などに聞き、自己認識との違いを確認しながら、どこに「独自性」や「優位性」があるのかを確認しています。そのような客観的評価をもとに、優位性の高い製品やサービスに集中したり、「業界初」や「世界初」のように、明確な差別性のある製品を打ち出していくことも有効でしょう。
このことは、伝統的な産業であっても同じです。大正時代から金属洋食器産業が盛んな新潟県燕市には、数多くの関連メーカーがひしめいています。しかし近年、安価な海外製品の台頭を受け、差別化を実現していかなければ、生き残りが難しい状況に追い込まれました。そこで、地域内同業者間の連携を密にするとともに、行政や地域デザインセンターと共同し、“燕市の洋食器”としてブランド化を推進しました。その結果、新素材チタンを採用した食器や、ユニバーサルデザインを徹底した福祉食器具などで復興を果たし、その底力をあらためて世に示しています。新しい技術に果敢に挑戦し、独自性を追求することがさらに技を磨き、新しい伝統を培っていくのです。
もちろん、独自性があれば何でもいいというわけはなく、“その商品・サービスが、人や社会のために役立つか”と常に問う意識を、経営者や作り手がしっかりと持っていることが重要です。そして、その自信と誇りがお客様の共感を呼ぶのです。
公的な認証制度によるブランド構築
財団法人日本産業デザイン振興会(http://www.jidpo.or.jp/)は過去40年にわたり「グッドデザイン賞(通称Gマーク http://www.g-mark.org)」の認定を通じ、有用性の高い製品やサービスを紹介、告知しています。設立当時は高度成長期で、安易な海外製品のコピーなどの粗悪な製品が出回っていました。そこで、価格よりも品質やデザインの高いものが、結果的に顧客にメリットを与えることを啓蒙するためにこの賞が制定されたのです。バブル期以降は「グッドデザインはグッドビジネスを意味する」をメッセージに、デザインによるブランド形成をサポートする立場に変わってきています。対象も大手企業の大量生産品に限らず、「環境」や「ソフトウェア」などにも広がり、中小企業に的を絞った受賞枠も制定しています。このような制度を積極的に活用することも、中堅・中小企業のブランド形成には大いに有効です。
三化工業株式会社(http://www.sanka-kogyo.co.jp/)は、2003年度グッドデザイン賞において、「中小企業庁長官特別賞」を受賞しました。三化工業株式会社は、調理器具の中でも「クッキングヒーター」に特化して、それだけを製造・販売している専門メーカーです。様々なキッチンメーカーをはじめ、多くの住宅設備メーカーなどに納入しています。
大企業のように、あらゆるバリエーションを取り揃えるのが難しい中堅企業の場合、自社ブランドのコンセプトを明確にし、独自性をしっかりと出していかなければいけません。三化工業では、キッチンにおいて複雑すぎる高機能は、実際にはあまり使われていないことを認識し、基本機能をしっかり作って余分な機能を極力排除。説明書なしでも直感的に操作が理解できること(シンプルイズベスト)をコンセプトとして貫いており、ブランドの特色をはっきりと打ち出しています。
加えて、建築家とのコラボレーションで、「シンプルさと機能美を高次元で融合」させた製品が認められ、“2003年グッドデザイン中小企業庁長官特別賞”を受賞しました。これにより様々なメディアで採り上げられ、ブランドイメージの向上に大いに役立っています。「Gマーク」は、優れた製品であることを公的に認定してくれているわけですから、消費者は安心して購入することができ、そのブランドに信頼感を持つことができるのです。
著者プロフィール
雨宮 和弘(あめみや かずひろ)
クロスメディア・コミュニケーションズ有限会社 代表取締役社長- 1983年、日本テキサス・インスツルメンツ株式会社入社、コーポレートコミュニケーションおよびPRマネージャー。日本におけるインターネットの商用利用サービス開始と同時にインターネットによる日本初の人材採用ホームページを作成、その後日本TIの初代ウェブマスター。1996年インテルジャパンに転職、コーポレートマーケティング部にて同社のインターネット企画運営を担当。1999年クロスメディア・コミュニケーションズ有限会社として独立、現在に至る。
http://www.crossmedia.co.jp/
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