「100億の壁」
第3回 守り:売上拡大策を支える社内体制の強化
第2回では、売上拡大のための攻めとして、「1.全社戦略の立案」、「2.マーケティング戦略の策定」、「3.戦略を実施するための事業計画の策定・実施」という3段階について説明しました。
この3段階で売上を上げようとすれば、その成長を支える社内体制を強化する必要が出てきます。今回は、そのためのいわば「守り」といえる部分について説明します。守りについては、以下の5つを説明します。
- 管理力の強化
- 組織力の強化
- ITシステムの整備
- 社員教育の強化
- 社会との調和
まずは、会社がよりよくなる基盤である管理の体制を整える必要があります(上記の1)。次に重要なのが、権限委譲です。ワンマン社長からいかに現場の社員が判断する組織に変革を遂げるかがポイントとなります。上記の2から4は権限委譲のために必要なことになります。最後に、大きな企業になると社会に対するインパクトも大きくなるため、5の社会との調和も重要になってきます。以下、この5つについて説明します。
1. 管理力の強化
管理(マネジメント)の基本は、PDCAサイクルです。PDCAサイクルとは、計画(Plan)→実施(Do)→チェック(Check)→修正(Action)を繰り返し行うことです。計画の立案、および、実行については、前回説明しました。管理で大切なのは、チェックと修正の部分です。
チェックとは、計画期間が終了したときに、計画で立てた目標値と実際の値にどのくらい差があるかを確認することです。たとえば、売上は目標を達成したか、出店数は目標を達成したか、などを確認します。
チェックだけで終わっては何も意味がありません。チェックをした後で、なぜ計画と実績に差が出たのかを調べることが重要です。たとえば、売上が達成できなかった理由は、商品が顧客に受け入れられなかったのか、商品の認知度が低かったのか、などの原因を探り、その対策を打つことが最も重要です。
この結果、次年度も再度PDCAサイクルを回すことで、毎年改善されていくのです。このPDCAサイクルができるようになれば、次の売上300億円などのステップとなります。
2. 組織力の強化
組織力の強化の最大のポイントは、権限委譲です。そのためには、社内規定を整備する必要があります。社内規定とは、各分野における会社の方針を決めたもので、たとえば経理規定、就業規則、組織規定、人事規定などがあります。注意点は、これらは、マニュアルとは全く異なるものだ、ということです。
マニュアルには具体的な手順が書かれており、部署ごとに作成するもので、必要があれば頻繁に見直す必要があります。一方、規定には、大まかな方針や行動の原理・原則が書かれており、会社の経営陣も含めて承認されるもので、頻繁には変更されません。普段の仕事は、マニュアルにしたがってなされますが、マニュアルに書かれていない場合や、マニュアルを変更する場合には規定を参照する必要があります。
経営陣が規定を整備することによって、その範囲内であれば各担当部署に権限を委譲するということができるようになります。
2006年春の新会社法の施行に伴い、大会社(資本金5億円以上、または、負債200億円以上の会社)では「内部統制」構築の基本方針を決定することが義務付けられるなど、社内の管理体制の強化が求められています。その中で、この社内規定は重要なものになります。今後の組織が大きくなるための準備としても必要になります。
3. ITシステムの整備による情報の共有化
経営資源として、情報の重要性はますます高まっています。特に高度な判断には、適切な情報が欠かせません。
権限委譲するということは、社長と同じ判断をするための材料を部下が持つ必要があります。そのために最も重要なことは、情報を共有化することです。
すべての情報は社長だけが知っているというワンマン企業から、すべての情報を全社員が知っているというオープン型の企業になることが理想です。情報を知るからこそ、現場毎に自立的な判断ができるのです。
このためには、グループウェアやナレッジマネジメントシステムなどのITシステムを導入することが良いでしょう。営業など社外にいる人であっても情報を入手できるような携帯電話を使った情報共有システムなどもあります。
更なる飛躍のためにはこのようなITシステムの導入も検討する必要があります。
4. 社員教育の強化
権限を委譲するには、委譲される社員の強化に努める必要があります。強化には、能力向上と満足度向上があります。
能力向上のための社員教育は不可欠となってきます。そのために、社員の教育システムを整備する必要があります。社外研修など、仕事以外のOff-JTと呼ばれる研修にも積極的に社員を参加させることで、体系的な知識を身につけることができます。
また、能力開発でより大切なのは、仕事を通じての能力開発(OJT)です。権限を委譲することによって、大きな仕事、大きな責任を与えることによって、社員は成長します。権限を委譲することはこのような効果もあるのです。
また、売り上げの拡大に伴って社員が増えてくると、社長や幹部がすべての社員に目が届かなくなります。社内体制の変化に伴って、社員にストレスがかかることもありえます。そのため、社員満足度を定期的に測定する仕組みを構築し、いち早くその変化に気づく必要があります。
満足度向上で最近よく取り上げられるのが、成果主義です。全員を画一的に評価することが社員のやる気をそぐことは言うまでもありませんが、成果主義にも気をつける必要があります。そもそも、「会社の求める成果」は何かを明確に示す必要があります。このとき、短期間の成果や当人だけの成果を指標にしては、うまくいかないでしょう。長期的な視点(能力開発の視点)や、周囲の人に対する協力なども考慮に入れる必要があります。結局大切なことは、評価手法ではなく、上司がきちんと部下のことを見て、それを評価するという当たり前のことに行き着くでしょう。
また、成果を上げた社員に対してどのように報いるかも重要です。多少の賃金の差をつけることは必要ですが、社員が第一に求めているのはお金ではありません。最大の報酬は、自分の能力がより生かせる次の仕事です。やりがいのある仕事を社員に与える、または、社員が働きやすい環境を作る、ということも重要なことになってきます。
5. 社会との調和
売上が拡大すれば、社会的影響も大きくなります。そのため、企業の社会的責任(CSR)を問われるようになります。法律遵守(コンプライアンス)はもちろんのこと、環境重視、個人情報保護などについて社内教育をする必要があります。ここで重要なことは、経営者が義務だから仕方なくやるということではなく、その必要性を経営者自らが認識し、社員に伝えることが重要です。ここは、バリュー(価値観)にかかわってくる点にもなります。会社としての価値観をしっかり伝えることが重要です。
今回は、売上拡大を支える守りの面について、5点説明しました。次回は、実際の企業がどのように100億円を突破したのかについて具体的に説明します。
著者プロフィール
小島 琢矢(こじま たくや)
小島経営研究所 代表- 1970年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 博士課程修了。博士(学術)。チェスの1993年世界青年(U-26)チーム選手権では 日本代表キャプテンを務めた。大学院、NTT基礎研究所では、コンピュータ囲碁の研究を行う。その後、NTTコミュニケーションズ(株)に移り、マーケティング、経営企画などを担当。
2005年3月に独立し、現在、経営コンサルタントとして、コンサルティング業務、講演、各種執筆を行っている。専門は、ブルーオーシャン戦略、経営品質向上プログラム、マーケティング、内部統制、リーダーシップなど。著書:「ポケット図解 新会社法がよ~くわかる本」(秀和システム) (2005年11月出版)
http://www.kojima-keiei.biz-web.jp
[2006年1月12日 掲載]
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