Fujitsu The Possibilities are Infinite

「100億の壁」
第2回 攻め:100億円に向けての売上拡大策

第1回では、売上は一直線で伸びるのではなく壁があり、100億円の壁を乗り越えるためには、個人会社から組織企業への転換が必要だ、という説明をしました。そして、組織企業へ転換するための基礎固めとして、1.トップが意識を変えること、2.判断基準としてミッション(存在意義)、ビジョン(目指すべき将来像)、バリュー(価値観)を決める必要がある、という説明をしました。
第2回目の今回は、基礎固めが終わった後の攻め、すなわち売上拡大のためにはどのようなことをすればよいのか、ということを説明します。

1. 売上拡大のための方法の確立

売上100億円を目指すには、当然、売上を今よりも増やす必要があります。しかし、今までと同じ方法で、がむしゃらに売上を拡大しようと思っても、必ずどこかで頭打ちになってしまいます。そこで必要なのが、きちんとした計画を作成し、実行することなのです。これには、以下の3つの段階があります。

  1. 全社戦略の立案
  2. マーケティング戦略の策定
  3. 戦略を実施するための事業計画の策定・実施

以下では、これら3つの段階について説明します。

2. 戦略とは何か

最初の段階が、「1.全社戦略の立案」と「2.マーケティング戦略の策定」になります。この両方に「戦略」という言葉が入っていますが、戦略とは、何でしょうか。それは、何をやるべきかを決めることです。つまり、大きな方向性を示すことが、戦略といえます。
何のために戦略を決めるのでしょうか。それは、「何をやらないか」を決めることでもあります。企業には、限られた資源(ヒト、モノ、カネ、情報)しかありません。その限られた資源を有効活用するために、何をやって、何をやらないのかを明確にする必要があるのです。
では、具体的に戦略とは、どのようなものでしょうか。まず、事業領域(ドメイン)を決めることがあげられます。事業ドメインとは、以下の3点を決めることです。

「誰に:顧客の明確化」
「何を:顧客に提供する価値、機能の明確化」
「どうやって:顧客に価値を提供するための独自能力(コア・コンピタンス)」

この3つを決めることで、何をやって、何をやらないかが明確になります。

3. 戦略を制約する要因

戦略は、どのように決めるのでしょうか。「儲かるからやる」ではだめです。ここには、会社としての意思がありません。自社で儲かる(ように見える)ことは、他社でも儲かるため、結局は他社と同じことをやって過当競争に巻き込まれることになります。
戦略は、前回説明したミッション、ビジョン、バリューから導かれなければならないのです。これが、会社の個性です。これを前面に押し出すことによって、それに共感したファン(顧客)がつく。これが、会社の本来あるべき姿です。つまり、ミッション、ビジョン、バリューに合致したことにこだわって、それを実施する、ということです。

4. 第一段階の戦略:ニッチ市場でのトップ

事業ドメインを決めたら、最初の戦略目標は、そのドメインでのシェアNo1です。大手がひしめいていて、シェアNo1なんて無理だ、と考えたとしたら、それは、ドメインの設定を間違えています。ドメインを狭くする(絞る)ことで、No1を狙えるのです。
たとえば、ある地方の小売業を例に取ります。「誰に」では「近郊の住人」、「何を」では「日用雑貨品」、「どうやって」では「店舗販売」としたとすると、一般のスーパーと何にも変わるところがありません。大手スーパーが進出した場合に勝てるはずもありません。ドメインが不明確で、広すぎたのです。
一方、ミッションとして、「地域の高齢者の美と健康に貢献する」を持っている会社があったとします。この場合、「誰に」では、「自社が展開しているA県の高齢者」をターゲットとします。「何を」では、「美と健康に役立つもの」を提供します。「どうやって」では、「専門スタッフを配備した対面販売」で行うこととします。この例では、ターゲットも明確になり、普通のスーパーとの違いは明確です。
このようにターゲットを絞った狭い分野のことを「ニッチ」と言い、ニッチでのシェアNo1を目指す戦略を「ニッチ戦略」と言います。
ニッチ戦略は、絞ることが重要なので、自社が行っていた事業の一部をやめるということも必要です。たとえば、今まで若者向けの化粧品を置いていた場合、その棚を無くし、高齢者向けの商品を増やす、といった思い切った絞込みが必要です。
ニッチ戦略の効果は、主に2つあります。一つは、ターゲットが明確になるため、そのターゲットに当てはまる顧客には、最もアピールでき、「私のためのお店」と感じることが出来るのです。そのため、顧客の信頼度が高まり、リピーターとなってもらえるのです。もう一つの利点が、大手を含めた他社が入りにくい、ということです。一度、ターゲットとした顧客に受け入れられてしまえば、他社が入り込む余地は少なくなります。また、市場自体も大手が入り込むほどには大きくないため、大手が魅力を感じないということもあります。
たとえば、カップラーメンの麺を粉々にして味付けした「ベビースターラーメン」という不思議なお菓子がありますが、これは株式会社おやつカンパニーがほぼ独占的に製造・販売しています。これは「何を」(製品)を絞った例です。大手が入り込むほどの市場規模がないためと、すでにブランドが確立しているため、新規参入してもうまくいかないのです。
このように、まずはニッチ市場でのトップを目指す戦略を取ります。注意点としては、適切な市場規模を確保することです。ターゲット市場全体の規模が80億円で、その半分のシェア40億円を獲得する、などの目標を立てます。この時点で、100億円に届く必要はありませんが、あまりにも市場が小さすぎる場合はドメインを考え直す必要があります。

5. 第二段階の戦略:事業領域の拡大

ニッチ市場でのトップを確保したら、事業領域を拡大します。この方法には、「誰に」を拡大する(新しい市場を開拓する)方法と、「何を」を拡大する(新しい商品を取り扱う)方法の2つがあります。
事業領域拡大の注意点は、「売上拡大がみこめる」という理由だけで選んではいけない、ということです。やはり「ミッション」「ビジョン」「バリュー」に合う方向で事業領域を拡大する、ということが根本になります。
「誰に」の拡大を、新市場開拓と呼びます。たとえば、「店舗を隣のB県、C県まで広げる」ことがこの戦略の例になります。この場合、「何を」(商品)は、今までのものがある程度利用できるところに進出します。たとえば、全く別の地方に進出するのではなく、隣接する地域に出店したほうが、物流の面でも、顧客の類似性の面でもよいと考えられます。
「何を」の拡大を、新商品開発と呼びます。小売の場合は、新商品の取り扱いになります。この場合は、「誰に」(顧客)は同じにしておきます。先ほどの例で言えば、「健康食品に加え、漢方薬にも進出する」というのがこの戦略の例になります。
このほかに事業領域の「誰に」「何を」の両方を拡大する多角化もありますが、この戦略はリスクが大きいため、成功確率は低くなります。欲張らずに、「誰に」か「何を」のどちらかだけを拡大した方が良い結果となります。
この事業拡大を行うことによって、売上100億円の壁の突破を目指します。

6. マーケティング戦略の策定

戦略には、会社全体の方向を決める全社戦略と、その全社戦略に基づいて、各部門で何をやるかを決める部門戦略(機能戦略)があります。今までは、全社戦略の説明をしました。この全社戦略に基づいて部門戦略を立てます。この際、部門戦略と全体戦略の整合性が大切です。部門毎に勝手に判断するのではなく、全社戦略に向かって、一丸となって各部門が取り組みをするのです。
機能戦略には、マーケティング戦略、人事戦略などいくつかありますが(下図)、その中で、最も大切なマーケティング戦略を取り上げます。



日本の会社には、一般的に、高度成長期に慣れているせいか、マーケティングという発想が不足している場合が多くあります。マーケティングの逆の考えは、セリング(Selling, 販売)ということです。セリングは、作ってしまったものをどうやって売るか、という発想です。成長期の日本では、物を作れば売れたので、物からの発想になっており、いい物を作れば売れるのだ、という発想が根底にあります。
一方、マーケティングは、まず、顧客を知り、その顧客にあった商品を作る、という顧客からの発想です。この考えを取り入れない限り、これからの会社の成長はありえません。

7. 事業計画の策定・実施

ここまでに、戦略の策定について説明しました。次は、戦略に基づいて、具体的な計画、目標を立てます。これを事業計画と言います。事業計画は、まず、ビジョンに基づき、3年程度の中期の目標を立てます。たとえば、「3年間に新規に10店舗を開店する」などです。それに基づき、毎年の年次計画を策定します。そして、さらにそれを月別の計画に落とし込みます。これらの計画は、もちろん、戦略に結びついたものでなければなりません。
計画の策定よりも大変なのが、その計画を確実に実施することです。ここで最も大切なのは、策定した計画を社員に周知し、理解してもらうことです。そして、計画に基づいて、社員が具体的に何をやるべきかを示す必要があります。
ここで有用なツールの一つとして、「バランス・スコア・カード」という手法があります。この手法では、「3年後の10店舗開店」に向けて、各部門の社員が何をすればよいのかを決めていきます。たとえば、人事のある社員であれば、「新規に○人の店長候補を採用し、○人の社員を店長候補として教育する」などの目標を設定します。このように、個人の目標と全社の目標の関係が分かりやすくなる、という利点があります。
このように、事業計画を立て、それを全社員に浸透させることで、戦略を確実に実施します。

今回は、攻め=売上拡大の手段として、1.全社戦略の立案、2.マーケティング戦略の策定、3.戦略を実施するための事業計画の策定・実施の3段階を説明しました。次回は、攻めを支える守りについて説明します。

著者プロフィール

小島 琢矢(こじま たくや)
小島経営研究所 代表
1970年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 博士課程修了。博士(学術)。チェスの1993年世界青年(U-26)チーム選手権では 日本代表キャプテンを務めた。大学院、NTT基礎研究所では、コンピュータ囲碁の研究を行う。その後、NTTコミュニケーションズ(株)に移り、マーケティング、経営企画などを担当。
2005年3月に独立し、現在、経営コンサルタントとして、コンサルティング業務、講演、各種執筆を行っている。専門は、ブルーオーシャン戦略、経営品質向上プログラム、マーケティング、内部統制、リーダーシップなど。著書:「ポケット図解 新会社法がよ~くわかる本」(秀和システム) (2005年11月出版)
http://www.kojima-keiei.biz-web.jp

[2005年12月8日 掲載]


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