「100億の壁」
第1回 「100億の壁」と、それを突破するための基礎固め
1. 売上には壁がある
会社を新しく立ち上げます。最初はほとんど売上がないでしょう。あるきっかけで急に売上が増えます。順調に伸びてきたかと思うと、急に伸びが止まります。今までと同じやり方をしているのにどうしてだろう。経営者は悩みます。
多くの企業ではこのような経験をしています。売上は直線的に伸びるわけではありません。伸びたり止まったりの繰り返しです。このように急に売上の伸びが止まることを、売上高の壁といいます。このような壁は「1、3」にある、とよく言われます。最初の壁が年商1億円、そして3億円、10億円などです。
この壁をすべて経験するわけではありません。10億円までは順調にきたけれども、30億円で急に伸びが止まることもあります。また、売上が下がってしまうこともあります。
今回は、中堅企業にとって最も大きな壁である100億円の壁について説明しましょう。30億円は超えたけれど、なかなか100億円を超えられない、そういう中堅企業はたくさんあります。この壁を突破するには、今までとあらゆる面で変わらなければなりません。
2. 100億円の壁を越えられない企業の典型例
100億円の壁を突破できる企業とできない企業の違いは何でしょうか。
まずは、100億円の壁を越えられない企業の典型例を見てみましょう。
一番分かりやすいのが、社員は誰を見ているか、です。壁を超えられない企業では、社員がみな社長を見ています。そうです、ワンマン社長です。
ワンマン社長でここまでこられた、という企業は、ある意味「リーダーシップ」のある社長が引っ張る会社です。
すべての指示は社長が出し、すべての判断は社長がしています。社長がいなければ、業務が止まってしまうこともあります。
どうして止まってしまうのでしょうか。それは、経営理念や戦略がないので、社員が自分で判断する基準がないのです。社長が判断基準なのです。社長がルールブックなのです。
社長の判断も急に変わる場合があります。きちんとした長期ビジョンに基づく戦略がないため、ころころ判断が変わることもあります。社長の判断がいつ変わるか、どうして変わるか分からないので、常に社長の意見を聞く必要があるのです。
このようなワンマン社長の会社では、「社長の器=会社の器」になってしまいます。社長より優秀な社員は辞めてしまいます。社員が優秀でないと嘆く社長がいますが、このような会社では、社長よりも優秀な社員は会社にいられないので、どんどん辞めていってしまう(もしくは、そもそも採用されない)のです。
ある意味、社長の器で100億円近くまでこられた会社は相当な会社です。でも、このままでは100億円の壁は越えられません。では、どうしたらよいのでしょうか。
3. 100億円を突破できる企業の例
100億円を突破している企業の社員は、社長を見ていません。会社は、組織として動いています。組織として動くためにはどうしなければいけないでしょうか。
それは、権限が委譲されている、ということです。社長から権限が委譲され、重要な案件以外の決裁は社長以外の役員などが行なっています。さらに日々の業務については、部長や課長などが権限を委譲され、実行しています。
ではどうして社長に判断を求めなくても、ほかの人が判断できるのでしょうか。それは、きちんとした判断基準が示されているからです。たとえば、長期的なビジョン、それに基づく戦略、そして経営目標。日常の業務に関しても、○○規定などが整備されているので、原理原則が分かります。多少の例外があっても、その原理原則にしたがって判断することができるのです。
このように、全社としての考え方の基本がぶれず、またその考え方の基本が多くの社員に共有化されているので、組織として機能する会社=組織企業となることが可能なのです。
このように、社長個人が中心の個人会社から組織企業となれば、100億円の壁を軽々と突破し、次の300億円、1000億円への基礎固めともなります。
4. 100億円の壁を突破するための道筋
本稿では、4回にわたって、100億円の壁を突破するための方法を説明します。第1回となる今回は、前提となるべき基礎固めを行う方法について説明します。第2回では、売上拡大という「攻め」の方法を説明します。第3回はその拡大を支える「守り」について説明します。最後の第4回は、実際に100億円を突破した企業について、具体例を説明します。
5. 基礎固めとは
100億円を突破するには、まず、しっかりとした基礎固めのために現状を見直す必要があります。ここから、基礎固めについて具体的に説明します。
100億円突破のためには、組織企業にならなければなりません。そのためには、権限委譲が必要です、という話をしました。今までワンマン社長でやってきた会社で、いきなり権限委譲することはできません。権限委譲するためにはどのようなステップを踏めばよいのでしょうか。
基礎固めは、大きく分けて、2つのステップからなります。まず、トップが意識を変えることです。これが最初の大前提です。そして、社員が自分で判断するための仕組みづくりをすることです。この2つのステップについて説明しましょう。
6. トップが意識を変える
最大にして最も重要なステップは、トップが意識を変えることです。100億の壁を越えられない理由、その最も大きな原因が社長自身にあることを認める必要があります。「今のやり方で100億円近くまできたんだ、だからこのままでいいんだ」、と思う社長がほとんどです。しかし、今までの延長線上では、100億の壁は越えられないのです。
今まで、自分がすべて判断し、自分中心で経営を行い、ここまでこられたでしょう。しかし、100億円の壁を越えるには、組織で動く会社にしなければなりません。組織で動くとは、社員が自分で判断できる会社にする、ということです。簡単に言えば、大きな状況の変化がなければ、社長がいなくても社員だけで判断ができる会社にする、ということです。
そのために変えるべき意識は、社長がやるべき仕事とは何か、社員がやるべき仕事は何か、という点についてです。
具体的にそれぞれ何かを次に述べましょう。
7. 判断基準を決める
「組織中心で仕事をしましょう、社長は前面に出ないでください」と言うと、すべてボトムアップにする社長がいます。このようなすべて丸投げで会社がうまくいくようであれば、社長の仕事がありません。社長はいらない、ということになります。
では、100億円突破を目指す企業における社長の仕事とは何でしょうか。それは、社員が自主的に判断できる判断基準を決めるということです。
会社のあるべき意思決定の姿を下図に示します。
社員の行動基準のよりどころは4つあります。ミッション、ビジョン、バリュー、そして全社戦略です。実は、大企業でも不振が続く企業の中にはこれら4つが決まっていないところが多くあります。そして、この4つを示すことこそが社長の仕事なのです。
それぞれについて説明しましょう。

- ミッション(Mission):なぜ企業があるのか、という企業の存在意義です。創業時の精神や、経営理念といってもよいでしょう。
- ビジョン(Vision):目指すべき将来像です。たとえば、5年後にわが社はこうなっている、という姿を具体的に示すことです。
- バリュー(Values):これは、価値観という意味です。行動指針といってもよいでしょう。
この3つは、戦略に先立って立てなければいけないものですが、立てる順番は問いません。
今、日本の企業の中で最もこの3つを強烈に示している社長が、居酒屋チェーン・ワタミの渡邉美樹社長です。以下にワタミの例を示します。
- ミッション:地球人類の人間性向上のためのよりよい環境をつくり、よりよいきっかけを提供すること
- ビジョン:2020年1兆円グループ企業
- バリュー:「常に謙虚なれ、常に感謝せよ」「他人の喜びや悲しみを共有せよ」「.約束を守る、嘘をつかない」など10個
こちら(http://www.watami.co.jp/corp/group-rinen.html)に掲載されています。ぜひご覧ください。
このビジョンを実現するための具体的な方法が全社戦略になります。
このミッション、ビジョン、バリューそして全社戦略を策定し、全社員に浸透させること、これが社長の仕事です。つまり、会社の方向性を示し、判断基準を示すことが社長の仕事なのです。
その後のより詳細な機能戦略(部門別戦略)やそれに基づく戦術を策定し、実際にそれを実行するのは、社員の役割ということになります。
このように、社長と社員の役割をしっかりと区別することが重要です。
今回は、100億円の壁の存在と、それを突破するための基礎作りについて説明しました。次回は、この基礎を元に、どう攻めていくのかについて説明します。
著者プロフィール
小島 琢矢(こじま たくや)
小島経営研究所 代表
- 1970年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 博士課程修了。博士(学術)。チェスの1993年世界青年(U-26)チーム選手権では 日本代表キャプテンを務めた。大学院、NTT基礎研究所では、コンピュータ囲碁の研究を行う。その後、NTTコミュニケーションズ(株)に移り、マーケティング、経営企画などを担当。
2005年3月に独立し、現在、経営コンサルタントとして、コンサルティング業務、講演、各種執筆を行っている。専門は、ブルーオーシャン戦略、経営品質向上プログラム、マーケティング、内部統制、リーダーシップなど。
著書:「ポケット図解 新会社法がよ~くわかる本」(秀和システム) (2005年11月出版)
http://www.kojima-keiei.biz-web.jp
関連記事
記事についてのご質問・ご意見ご要望など、お気軽にお問い合わせください。
経営支援情報に関するご質問
電話でのお問い合わせ

受付時間 9時~17時30分 (土曜・日曜・祝日・当社指定の休業日を除く)