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会社はだれのものか

岩井 克人 (著) 平凡社

会社はだれのものか 「株主主権論」が「グローバル標準」なのか―


サマリー

2005年の3月から4月にかけて、ライブドアとフジテレビによる、ニッポン放送をめぐる買収合戦があった。 この買収合戦によって、「いったい会社はだれのものなのか」という、会社に関する本質的な問題提起が、多くの人びとが日常的に接するメディアにおいてもなされるようになった。

「会社はだれのものか」という問いに対して答えるためには「会社とは何か」という、さらに基本的な問いから出発するべきだ。

基本的には、会社とは「法人企業」の別名だ。「会社」とは、単なる「企業」ではない。「法人企業」、つまり「法人化された企業」のことだ。

この「法人企業」という言葉のうちの「企業」という言葉は、利益を求める経済活動という意味だ。一方「法人」とは「本来ヒトではないモノなのに、法律上、ヒトとして扱われているモノ」のことだ。


法人企業である会社は、法人化されていない、単なる企業とどこが違うのか?

たとえば、私が八百屋の主人だとする。その私が、お腹がすいたとき、自分の八百屋の店先にあるリンゴを手にとって食べたとする。

そのとき、私には何のお咎めもない。なぜなら、八百屋という企業は、すべてその主人のものだからだ。

今度は私が、上場をしている某デパートの株主であったとする。自分が株式を持っているデパートの中に入り、地下売り場で売っているリンゴをかじったとしたら、どうなるか?

私は窃盗罪で捕まってしまう。それは、会社資産の法律上の所有者は、株主ではないからだ。その法律上の所有者は、法人、つまり法律上ヒトとして考えられている会社であるのだ。


株式市場とは、会社のなかに据えつけられた会社資産とは独立に、モノとしての会社を売り買いする市場のことだ。これによって、法人である会社の法律的な構造が明らかになったと思う。

街角の八百屋は、非常に単純な構造をしている。八百屋の主人が八百屋の資産であるリンゴやナシや自転車や軽トラックを直接に所有している。それはいわば平屋建ての建物だ。

これに対して、会社は、2階建ての構造を持っている。まず、2階部分では、株主が会社をモノとして所有している。具体的には株式を所有しているわけだ。

そして1階部分では、その株主に所有されている会社が、こんどはヒトとして会社資産を所有している。すなわち、会社とは二重の所有関係の組み合わせによって成立している組織なのだ。


このように会社の基本的な構造を把握すると、会社という存在に関する多くの疑問がおのずと明らかになってくるはずだ。

たとえば、一昔前には、アメリカ型の会社がよいのか日本型の会社がよいのか、あるいは会社は株主のものでしかないという株主主権論はグローバル標準なのか、株主の役割を軽視する日本型経営は資本主義ではないのではないのかが、といった大論争があった。

この論争は、会社の基本的な構造さえ理解すれば、何が問題になっているのか、理解できるようになる。

会社の2階の部分のみに注目すると、株主がモノとして会社を所有しているだけに見える。すなわち、アメリカ型の会社というのは、この2階部分を強調した会社のあり方であるのだ。

逆に、1階部分に注目すると、会社のヒトとしての役割が際だって見える。会社の持つヒトの面を強調するのが日本型会社のあり方だ。

会社は株主のものでしかないという株主主権論は、本来2階建ての構造をしている会社という仕組みの2階の部分しか見ていない、法律上の誤りなのだ。

コメント

本書は、2003年2月に発売されたベストセラーで、小林秀雄賞を受賞した『会社はこれからどうなるのか』(平凡社)の続編だ。

多くのビジネスパーソンにとって、会社の本質がなんだろうが、会社が誰のものだろうが、あまり興味がないかも知れない。そんなことは知らなくても、働く上で大した問題にならないからだ。

しかし、自分の仕事の舞台が会社である以上、その本質を知っておくことは有意義なことだ。仕事もぐっと面白くなるはずだ。

また、会社に関連する話題は、昨今、特にライブドアの一件から、すっかりお茶の間レベルの話題になった感がある。来年には会社法も改正され、今後も会社がらみの話題はマスコミを賑わせそうだ。

こうしたニュースを、雑誌やテレビでリアルタイムに仕入れることは大切だが、本当に大事なことは、報道された事実に対する自分なりの見解をしっかりと持つことだと思う。

ところが情報源をメディアの報道だけを頼っていると、知識が断片的、付け焼き刃的になりがちで、自分の見解どころでは無くなってしまう。

そこで一度、関連する書籍を読んでおくことをお勧めしたい。

とは言え、今さらねじり鉢巻きで専門書を読破する気にはならないと思う。であれば本書のような書籍を一読するのが良いだろう。

本書は、大学の教授が書いたハードカバーで、200ページというボリュームのため手ごわい印象だ。だが中身はすべて語り口調で、後半はインタビューの構成となっているため、苦なく読めるはずだ。

経営者はもちろん、会社に勤めるビジネスパーソンで会社の本質について自分なりの見解を持ちたい人、その他、企業買収、コーポレート・ガバナンスなどに関心のある人にお勧めしたい。

記事提供:藤井 孝一ビジネス選書&サマリー