強い会社をつくる失敗学

畑村 洋太郎(著) 日本実業出版社
人はなぜ失敗するのか、その失敗はどうすれば防げるのか、そこから何を学ぶべきかといった「失敗」の周辺を学ぶ著書。
将来の失敗を予見し、防ぐ意味で大いに役立つはずである。
サマリー
牛丼の吉野家もかつて倒産したことがあるのをご存じだろうか?業績不振による資金繰りの悪化で倒産し、会社更生法の適用を申請したのだ。もう20年以上前のことだ。
築地の一牛丼屋だった吉野家は、1970年代チェーン展開を開始、76年には50店舗、翌77年に100店舗、78年には200店舗と倍々ゲームを続けた。
当時は、外食産業の株式公開が続いた時期だ。金融機関は吉野家に金を貸そうと日参し、マスコミは時代の寵児とはやした。そんな優良成長企業が、200店突破祝賀会からわずか2年で倒産した。
彼らはコストのために味を落とし、さらに値上げまでした。結果、客足が遠のき、あっという間に赤字がふくらんだ。そこに多店舗展開から来る資金需要で急速に資金繰りが悪化、銀行が見限った。
ただし再建も早かった。倒産した年から黒字転換、更生計画が認められた4年後に債務完済、その3年後に株式を公開した。まさにV字回復だ。
吉野家は再建のために不採算店を閉鎖し、成長優先の拡大路線を転換したわけだが、興味深いのはその失敗体験をデータベース化し、今も大切にしていることだ。
彼らは失敗の条件については100%学習したと言う。失敗した要素を集約し、今後、失敗の要素が揃ったことは一切やらないと決めたそうだ。
このように、失敗を積極的に研究すれば、次の失敗を避けることができる。そして強い会社に生まれ変わる可能性が大きくなるのだ。
多くの企業では失敗を避けようとマニュアルを作る。会社によっては、べからず集を作る。しかしそのどちらも失敗防止には不十分だ。
なぜなら、マニュアルは、いろいろな指示が書いてあり、その通りにやれば失敗しないが、指示通りにやらないとどうなるか書いていない。そのため予想外の事態に全く対処できないのだ。
また社員は「マニュアル通りにやればいい」と考え、ものを考えなくなってしまう。
べからず集は「こうしたらいけない」ということが書いてある。だが、では「どうすればいいのか」が書いていいない。
必要なのは、この両方が詰まった失敗知識だ。つまり、
- どう失敗したか
- どうして失敗したか
- どうすれば避けられるか
が整理して描かれていることが必要なのだ。
これがあって初めて、失敗を避け成功へと至ることができる。いわば失敗地図だ。これがある会社は強い。
だから、失敗したらその体験からどうすれば次の失敗を避け、成功にたどり着けるのかという知識が身に付ければいいのだ。吉野家はそういう会社になったから、強い会社として再生したのだ。
もうひとつ吉野家から学ぶことがある。それは成長企業も挫折する、あるいは成長企業ほど挫折しやすいということだ。つまり失敗学は創業間近で経営基盤がぜい弱なベンチャー企業にこそ必要なのだ。
今でも有望なベンチャー企業の倒産が続出している。本来なら強い会社として日本経済に活力をもたらしたはずだが、経営不振に陥り挫折したのだ。その失敗経験こそ本当に貴重なものなのだ。
日本は、経済の舞台での入れ替わりをもっと大切にすべきだ。この入れ替わりがスムーズに行われることが経済を活性化させる。
ところが、日本では既存の企業や大企業を残すことに力が注がれ、新陳代謝を行う仕組み作りが遅れている。それが現在の日本の苦しみの大きな原因だ。
多くの先駆者の残した失敗という財産を、もっと活用する方策を提示すべきだ。失敗の構造を明らかにし、危険地帯を避けるための地図を作ることが出来れば、本当の強い企業になるための武器になるはずだ。
コメント
失敗学の第一人者が贈る「失敗学シリーズ」の最新刊だ。人はなぜ失敗するのか、その失敗はどうすれば防げるのか、そこから何を学ぶべきかといった「失敗」の周辺を学ぶ失敗学は、将来の失敗を予見し、防ぐ意味で大いに役立つ。
言い尽くされた言葉だが、失敗しなければ成功はない。私は独立開業してから、特にそれを感じるようになった。会社に勤めている間は投資は不要だった。自分の時間を会社に提供すれば、一定のリターンがあるからだ。リターンが保証されている以上、これは投資ではない。
ところが起業するとわずかなお金でも、自分の時間かお金を投資しなければ得られない。当然、投資には失敗のリスクが伴う。投資に失敗すれば、投じた時間もお金も戻ってこない。独立開業当初は、どうもこの感覚になじめなかった。
この感覚に慣れると、投資マインドが働くようになる。つまりお金も時間も使う前に「これは投資か?それとも単なる消費か?」と意識するようになる。そして消費は極力控えるようになる。消費とは使ったら最後、戻ってこない、リターンの無いお金の使い方だ。
投資のコツは、自分のとれるリスクの許容範囲を知ることだ。失敗したら再起不能になるようなカケは決してしてはいけない。だがリスクが許容範囲なら、どんどん投資しなければ成功もない。
さらに大事なことが、失敗とのつきあい方、特に失敗したときそこから何を学ぶかだ。失敗したら「なぜ失敗したのか」そして「次に失敗しないためにはどうしたらいいのか」これを知ることが大事だ。こうすることで、次にとれるリスクの許容範囲が大きくなっていく。
一番良くないのは、失敗を他の人やものに責任転嫁することだ。
「あいつが言ったからそのとおりにやったら失敗した」
「あのときは寝不足だったから・・・」
つい言ってしまいそうだ。しかし、これで済ますと貴重な学習の機会を逸し、また同じ失敗を繰り返してしまう。気を付けたいものだ。
記事提供:藤井 孝一/ビジネス選書&サマリー
