Fujitsu The Possibilities are Infinite

 

鈴木敏文の「統計心理学」

勝見 明(著) プレジデント社

セブン-イレブンを勝利に導いた鈴木敏文氏の発想法に着目し、紹介した1冊。
独創的な発想とベーシックな思考に裏付けられた氏の経営学から、現在の厳しい経営環境を生き抜く知恵を学ぶことができる。


サマリー

セブンイレブンは、不況下にあっても抜群の競争力を発揮している。
1店舗あたりの日販平均は、他の大手コンビニエンスチェー7社の平均を19万円も上回っている。

その強さの秘密は同社を率いる鈴木敏文会長の経営学にある。まず鈴木氏は、商売は経済学だけでなく心理学に基づいて考えよと説く。

例えば現在の消費不況を、一般的な経済学は「不況で所得水準が上がらないから消費が回復しない」と分析する。

だが鈴木流に言えばそれは「将来に対する先行き不安」ということになる。将来が不安だから財布の紐が閉まるのだ。これは、今が安定していることの証でもある。

今が安心だから、その安心を失いたくないという不安に襲われる。このように消費者の心理に着目すると、不況も別の見方ができる。


98年秋に「消費税分還元セール」が大ヒットしたが、これは顧客の心理を刺激したものだ。顧客の心理に“反消費税”という物語を見出し、消費税アップに対する潜在的な不安感を刺激したのだ。

経済学の発想なら単なる「5パーセント割引セール」だが、これでは消費者の心理を刺激することはできなかったはずだ。顧客は経済でなく心で動く存在だから心理を刺激し飽きさせないことが大事だ。

売り手の効率性より買い手の満足感を優先するべきだ。商品の価格や機能よりもその商品が内包する意味や文脈に興味を持ち、面白がるのが消費者の心理なのだ。

経営とはスピードや規模を追及するものと考えられがちだが、鈴木氏は顧客心理を追及することこそ、持続的な競争力の原動力になると考えている。

これまで商品の売れ行きは富士山型だった。すなわち徐々に売れ始めピークに達し、そこからまた徐々に落ちていく曲線を描いた。

ところが今、商品の売れ行きはそうならない。一気に売れ始めピタッととまる。特定の商品に消費者ニーズが集中し、短期間で別の商品に移る。これをグラフにすると茶筒のようになる。

このように最近は、商品は茶筒型で売れる。ところが皆、今でも富士山型に対応している。だから販売の機会ロスが発生したり、売れ残りを大量に抱えたりすることになる。

これからは茶筒型に対応すべきだ。お客様のニーズのありかがわかったら、すぐにそれに合わせた商品を作り、店頭に送り出す。売れなくなったらすぐに売り場から除くべきだ。

鈴木流のもう一方の柱は統計学だ。彼はデータの達人として知られている。彼の手にかかると、ABC管理も本当のようなウソになる。

商品を売上の大きさによってABCの3ランクに分け、Aを最重要商品として重点的に管理するABC管理は、さまざまな分野で使われている。

例えば、Xは80個仕入れたうちの50個、Yは50個のうち40個、Zは35個仕入れたのうち35個が売れた場合、ABC分析ではXが最も売れたことになる。

しかしZは一日で完売し、Xは3日経っても30個残っていたかもしれない。この場合売れ筋商品はXでなくZにすべきだ。

このように「どれが一番多く売れたか」だけが判断基準のABC分析を盲目的に信じるとデータを読み誤る。だからセブンイレブンでは、どの商品が「いつ」売れたのかのデータも取っている。

情報には、分子情報と分母情報がある。例えば「ピアノがうまい」と言う分子は、分母が「ジャズマン」か「会社員」かで大きく変わる。この分母のとり方がうまいのも鈴木流の特徴だ。

例えば同じ気温25度でも、分母が夏か冬かで顧客の感じ方は大きく違う。夏が分母なら「寒い」となり、おでんが売れる。冬が分母なら「暑い」となり半そでやノースリーブの下着が売れる

このように分子情報だけでなく、分母を多様に変換することで発想が柔軟になる。特に分母を売り手でなく買い手にして発想することが大切だ。

我々は、分母を固定して考えがちだ。特に自分にとってわかりやすい、都合の良い分母を置きがちだ。それが変化への対応を鈍らせる。

日ごろから情報やデータについていろいろな分母を置いて考え、出てくる結果の意味の違いを比べる習慣をつけておくことが大切だ。

コメント

セブン-イレブンを勝利に導いた鈴木敏文氏の発想法に着目し、紹介した1冊。独創的な発想とベーシックな思考に裏付けられた氏の経営学から、現在の厳しい経営環境を生き抜く知恵を学ぶことができる。

また本書は、各所に鈴木氏の対話が載せられていたり、ポイントが55の金言としてまとめられていたりして、読みやすくなる工夫がされている。

実は私、社長本は好きではない。大半が自慢話か美談だからだ。大体、役に立たない、信憑性も薄い過去の武勇伝のオンパレードだ。
これは社員も読むことを考えれば、そうせざるを得ないところなのだろう。

第一、現役の忙しい経営者が本を書いている暇などあるのだろうか。
つい「本当に自分で書いているの?」と思ってしまう。また経営コンサルタントと言う仕事がら「そんなヒマがあったらちゃんと経営してよ」とも思ったりしてしまう。

本書のように第三者が書いた場合はなおさらだ。名指しで悪く書けるはずもなく、おべんちゃらの大合唱になりがちだ。本人が書くより悪そうだ。いずれにしても、社長本の中で、現役ビジネス・パーソンの仕事に役に立ちそうなものは多くない。

その点、今回の本は良書だ。まず自分の仕事に役に立てることができる。特に「こういう考え方もあるな」なと視点を増やすのに役立つ。

また情報をどうとらえ、その裏にある真実をどう見抜くのか、その方法を自分流に確立するヒントを得ることができる。

仮説と検証と念仏のように唱える経営者やコンサルタントは大勢いる。だがそれを実践し、実績をあげている人は多くない。

本書を参考に、自分流「統計心理学」を編み出せれば、仕事の頼もしい武器になるはずだ。

記事提供:藤井 孝一ビジネス選書&サマリー