Fujitsu The Possibilities are Infinite

 

コーチング・マネジメント

伊藤守(著) ディスカヴァー・トゥエンティワン

日本における唯一の「国際コーチ連盟マスター認定コーチ」が、理論から実践まで体系的に記したコーチングの基本書だ。
コーチングを小手先のテクニックではなく理論から学びたい人にはお勧めだ。


サマリー

環境は急激に変化している。今、企業が求めるのは、自ら変革を起こせる創造的、自発的人材だ。だが従来のやり方でそうした人材を育成することは難しい。まず教育やマネジメントの変革が必要だ。

その変革には、スポーツの世界が参考になる。スポーツでは、これまで、コーチは技術を教える人、選手はそれを教わる人とされてきた。だから名選手が名コーチとされてきた。

だが人はそれぞれ異なるので一方的に教えられた技術は使えない。使い方は本人が自分で見出さねばならない。だから最近のコーチは、教える代わりに会話をする。そして選手自身の気づきを促していく。

これはビジネスの現場も同じだ。だから会話を重ねて、相手に目標達成に必要なスキルや知識を備えさせ、行動を促すコーチングという手法が、人材育成法として注目されているのだ。


部下がうまくいかないのは、本人のやる気や人間性に問題があるとされがちだ。しかし本当の問題は普通、次のようなところにある。

  • 本人が、自分の能力に気づいていない
  • 適性がない
  • 知識がない
  • 技術がない
  • 意欲を高める方法を知らない

優秀な上司は、部下と会話して部下が持つ資質や才能を見つける。またその活用方法や、必要な技術や知識を得るために「何ができるか」について話し合う。こうして部下の自発的な行動を促す。

コーチングとは、こうした会話を作り出す戦略的なコミュニケーションのスキルだ。コーチはこのスキルを使い、会話を広げ、会話を促進する、いわば会話のファシリテーターだ。


人はそれぞれ違う。一つの考え方、やり方を押し付けてもだめだ。求められているのは、話を聞くのがうまい上司だ。教えるのでなく、引き出し考えさせ、相手を行動させる人だ。そういう上司は少ない。

人は考え方や、やり方を押し付けられても自発的に行動できないのだ。行動するには、双方向のコミュニケーションが必要だ。だが多くの場合、上司と部下の関係では、上司ばかりが話す。

こうして上司は、部下の状態や、行動できる動機について知る機会を失している。また管理し過ぎると、部下の自発性を奪い、状況対応力を低下させる。上司は任せなくてはならない。

だが放任はいけない。任せることと放任は似て非なるものだ。放任されれば、自分の行動や仕事に対するフィードバックがなくなり成長の機会を失う。

コーチングは管理でも放任でもない。相手に関心をもち、会話を交わすが、必要以上の管理をしない。部下の行動を促すことに主眼を置き、機能的、効果的に関わることである。


人は相手の話を聞いていない。皆、相槌を打ち、聞いている顔をしながら、実は自分が「次に何を話すか」を考えている。だが人は聞かれないと、自分が大切にされていないと感じる。

聞かれない理由は、聞く側の誤解にある。「聞いてほしい」と言われた人は次のように考える。

  • 忠告を求められている
  • 話の内容の評価を求められている
  • 問題の解決を求められている
  • 同情や共感を求められている
  • つまらない話でもつきあうことを求められている。

ところが「聞いてほしい」と言った人は、相手にそんなことを期待していない。彼らは単に「聞いてほしい」のだ。

人は、話しながら「自分が何を思っていたか」を知る。内側の情報を外に出して始めて認識できる。アイデアを生み出し、発展させる時も孤独な思索だけでは限界がある。だから話すのだ。


コーチングには大きく分けて次の6つのスキルがある。

  1. 要求する
  2. 聞く
  3. 聞き分ける
  4. 質問する
  5. 受け入れる
  6. 目標達成プログラム

いずれも誰かが考え出した新しい技術ではない。すでに実践され、機能しているコミュニケーションの集大成だ。だからコーチングを「日常の会話の気の利いた技術の集大成だ」という人もいる。

しかしプロのコーチは、これを次のように戦略的に進める。

  • 現状の明確化
  • 望ましい状態の明確化
  • 現状と望ましい状態のギャップの理由と背景の発
  • 行動計画の立案
  • フォローと振り返り

人はこうしたプロセスを経てはじめて自分で考え、行動するようになる。だから、変化する状況や、不測の事態に対応できる自立した人材が欲しい企業の人材育成に役立つのだ。

コメント

日本における唯一の「国際コーチ連盟マスター認定コーチ」が、理論から実践まで体系的に記したコーチングの基本書だ。コーチングを小手先のテクニックではなく理論から学びたい人にはお勧めだ。

本書に書いてあることには、いろいろと思い当たるフシがある。例えば「わかっていることと、行動の間には大きな溝がある」という一節がある。これは、私が起業希望者の相談にのっていて感じることだ。時々、いろいろとアイデアはあるのだが、何年も起業しない人がいる。

そういう人は、できない理由をたくさん用意している。そして、それを理由にいつまでも行動しない。だが誰にでもできない理由の一つや二つある。成功する人としない人の違いは「それでもやるかどうか」の一点だ。

と言うとミもフタもないので、一つだけ、こうした障害を乗り越えるコツを教えたい。それは「できない理由を書き出してみること」だ。そうするとたいてい「どれもどうってことない」ことに気づく。

これを書くのでなく、誰かに話すというやり方をすればさらに効果が上がる。実は、私に相談に来る方には、私に話しながら、私のアドバイスを待たずに自分で「できない理由がどれもどうってことない」ことに気づく人が少なからずいる。その間、私は頷きながら聞いているだけだ。

人に話すことは、紙に書くより、ずっと効果があるのだ。これぞまさにコーチングの原理なのだ、と本書を読んで思った。

記事提供:藤井 孝一ビジネス選書&サマリー