ONとOFF

出井伸之(著) 新潮社
世界で最も著名なビジネスパーソンの一人である著者が書いた初めてのエッセイ集です。
トップビジネスのスリリングな舞台裏、そして豊かに楽しむプライベート、ビジネス界の大物たちとの交流が繰広げられます。
サマリー
人生は、自らの意志で変えられることばかりではない。どんなに計画を練り、強靭な意志で実行しようとしても、外部要因の影響から逃れることはできない。
それは企業の行く末や国家の運命も同じだ。9月11日の米国同時多発テロ事件、半導体・IT業界の不況、エンロン社の破綻など数々の環境変化に直面した。
圧倒的な国民の支持率を背景に発足した小泉政権も、さまざまな事態に翻弄され、対応は後手にまわっている。
「いかに時代のスピードに対抗しビジョンや戦略を打ち出せるか」
「次々起こる予測不能な環境変化の対応に終始しないか」
2つの挑戦を同時にうけている。
アメリカの同時多発テロは衝撃的な事件だ。事件を伝える映像や犠牲者の数など目に見える事柄以外の影響もはかり知れない。
例えば、この影響で多くの国々に品不足がおきている。一地域の事件が世界中に影響を及ぼす。こうした物理面に加え、政治面など世界はどう変わるのか?
今回の事件は、グローバル化による経済格差、環境・エネルギー問題、民族紛争など歪みの噴出だ。単純に「正義」対「悪」という二元論では解決できない。
「世界の歪みの解消に、我々は何ができるか?」「歪みある世界でどう社会や時代と接点をもち、世界と調和するか」が大変重要なテーマである。
“ソニー”は井深、盛田両氏が終戦後「これから平和な時代を迎える」というとき、個人の生活や喜びを支えて「日本と世界に貢献したい」という思いで起業した。
つまり“ソニー”は「社会が平和であること」を前提に作られた会社だ。我々もそれに従い「個人に夢や喜びを与える」ことをビジネスとしてきた。
ところが世の流れは全く逆である。今後はガスマスクが飛ぶように売れる時代にビジネスをしていくのだ。「安心や信頼」というキーワードが重要になる。
これは、これまで想定おらず、教科書にも答えはない。しかし両氏が“ソニー”を成功に導けたのは、答えがない問いに答えを作りだしたからだ。
大量の規格品を一斉に売るやり方に、消費者は抵抗感を持ちつつある。
カメラの同好会なら、10代学生から70代経営者まで集まる。彼らは趣味で集まるため、性別や年齢、年収で割切る従来のマーケティングでは測れない。
そこは日常とは全く違う価値観に支配されている。財布の大きさすら変わる。従来マーケティングでは考えつかないユーザが生まれている。
画一化が進む一方、こうした「自分の世界」を追及する人が増えている。インターネットが、これまで不可能だった新しいコミュニティーの形成を促している。
空間を越えたつながりは、今後どんな新しい世界を作り出していくのか。わが社にとっては、これをどう深めていけるのかが課題だ。
日本では会社だけが生きがいで趣味がない人が多い。しかしこれからの時代、会社と関係なく外の世界と接する裏番組や趣味、つまりOFFの世界が必要だ。
インターネットの普及で個人が得られる情報量は飛躍的に増えている。専門家と素人の差は限りなく縮まった。結果OFFの世界の有無が知識の差となる。
これからは知識の時代だ。知識社会では知識の有無が決定的意味をもつ。知識の源泉は興味だから、未知のものに感動する気持ちが意味を持つ。
また趣味を持つ人は、話も面白く、幅広い視点を持つ。そのため会社でも人が寄って来る。またそういう人は発想力が豊かだ。
こうしてOFFの蓄積が会社の仕事、すなわちONに還流し、良い循環が生み出されていく。
コメント
世界で最も著名なビジネスパーソンの一人であるソニーの会長兼CEO、出井伸之氏著者の初エッセイ集である。トップビジネスのスリリングな舞台裏、そして豊かに楽しむプライベート、ビジネス界の大物たちとの交流が繰広げられる。
タイトルの「ON」は仕事、「OFF」はプライベートを指している。ここで言うOFFで、著者は徹底的に遊ぶ。
「遊ぶ」を辞書で引くと「自分の楽しいと思うことをして心を慰める」とある。「遊び」は「やる気」の原動力だ。
最近では、この力を心身の治療に役立てようとする研究がアメリカで盛んだ。学問の分野としても認められている。これは「しっかりOFFの時間を過ごすことが、ONにもよい還流を呼ぶ」という著者の持論と一致している。
ただ「遊び」は人それぞれだ。「何が楽しいか」は、自分で見つけるしかないからだ。実は、日本のサラリーマン社会にあっては、この「何が楽しいか」を見つけることに苦労する人が多い。
一般に日本の社会は仕事優先、滅私奉公が良しとされている。「遊ぶ」どころか家族まで含めたプライベートが仕事に比べて軽視されてきた。そういう環境に長くいると「自分が何をやりたいのか」すら見失ってしまうようだ。
本書は遊びながら、それこそビジネスの頂点を極めた人の話だ。だから勇気を与えてくれる。
皆さんは明日のOFFに何をしたいだろうか?それを考えるだけでも、今日のやる気になりそうだ。お願いだから「仕事」などと言わないでいただきたい。
記事提供:藤井 孝一/ビジネス選書&サマリー
