チャイナ・インパクト

大前研一(著) 講談社
コンサルタント大前研一氏が、自ら中国各地を取材し、書き上げた1冊です。
中国を1つと捉えて議論する風潮を批判し、地方ごとに丁寧に分析する点が見逃せません。
サマリー
かつて眠れる獅子と呼ばれた中国は、沿岸部に関しては完全に目覚めた。安価で良質な労働力と最新鋭設備を取り入れた産業基盤を背景にさらに発展する。
日本は、その圧倒的低コストが引き起こす価格競争から、もはや逃れられない。またその面で彼らに勝てる見込みも無い。
これを利用して成功するユニクロやホンダ、サンヨーのような企業がある一方、中国を市場や職を奪う脅威として見る企業もある。大半は後者だ。
実は中国製の製品や農作物を輸入しているのは、日本メーカーや日本の商社だ。中国を利用する企業が、利用できていない企業を責めているというのが本質だ。中国脅威論を唱えているだけでは、こうした本質は何ひとつ見えてこない。
中国は、政治的には北京の中央集権国家だ。しかし経済的には地方に権限委譲された連邦制の統治機構だ。
特に発展し経済的自立に成功したのが、東北三省、北京・天津回廊、山東半島、長江デルタ、福建省、珠江デルタの6つの沿岸部だ。
このメガリージョンは、それぞれ文化、歴史、言語的つながりで結ばれた複数の都市からなる文化圏として一つの国のようになっている。
これらの地域は、それぞれが独自性を持って発展しており、独立性が高い。面積や人口、経済力から見ても一つの国家として認識したほうがわかりやすい。
中国は、このメガリージョンが互いに競争しながら、外資系企業を呼び込み、その力を借りながら経済発展するという「貸席経済」で伸びてきた。
その典型はアメリカだ。資本や人材をためらいなく輸入し、世界中の企業に自国内の雇用創出をさせている。これが21世紀の繁栄の雛形だ。
いまや資本は瞬時に国境を越えて行き来し、情報も企業も消費者も雇用さえも電話一本で国際移動する時代なのだ。
自分の持つ地下資源や国土の広さ、軍隊の強さなどで、繁栄を引き寄せる20世紀までの経済原理は通用しない。
中国は、ダイナミックな経済の動きを本能的に察知し、他人の力を借りる貸席経済で自国経済のキャッチアップと建設、躍進へとつなげている。
資本も企業も投資が保証され、リターンが期待できるところに吸引されていく。中国には投資が集まり、強固な産業基盤が出来てしまった。
今後この基盤は伸びることがあっても、国家権力やイデオロギーが原因で滅びることは無い。長い期間かけて成熟し、他の地域に置き換えられていくというライフサイクルをたどるはずだ。
シンガポールの巨大バージョンがいくつか出来たわけだ。こうした経済発展は、今後、北京の統治機構にも少なからず影響を与えると予想される。
中国は経済面で日本に依存している。だが政治、行政の面でプレゼンスが悪いため、中国は日本を見下している。日中関係はゆがんでいるのだ。
だが今後、中国はアメリカと二分する有力な国家になることは間違いない。日本はこのままいくと中国の周辺国家に成り下がる可能性もある。
日本はまだ経済力があるうちに地域国家やメガリージョンとの付合いを深め、彼らが日本なしには立ち行かない程の相互依存体勢に持ち込めばいい。
そのためにも、日本は“東京”対“北京”という国民国家的発想から抜け出すべきだ。日本と中国の地域同士が深い付き合いをするという新しい考え方が必要なのだ。
我々は、チャイナインパクト、つまり“中国の衝撃”をいかに変革の原動力にするかという応用問題が、今突きつけられているのだ。
コメント
本書は著者大前研一氏の名著「ボーダレスワールド」と「地域国家論」の理論を、中国にあてはめて展開した、いわば「大前論実践編@中国」といった内容である。
この本の読みどころは、大前氏が中国を実際に見聞し、地域別に分析、対策まで提言したところである。ほとんどの識者が「“中国”問題」というように中国を一言で言い切る中で、本書はこうしたスタンスを完全否定、著者自らが何度も足を運び、それに基づいて自説を展開している。
学者やジャーナリストの論調を含む一般常識も、一旦は疑うべきであるという認識を新たにさせてくれるはずである。
かつてアメリカに対する報道でも同じようなことがあった。中国同様、広いアメリカを「アメリカ人は」とか「アメリカでは」などと一言で片付けようとする人が大勢いたのだ。
例えば自動車の通商問題がおきると、真っ先にデトロイトの人たちが取材された。当然彼らは日本に文句を言っている。それをテレビで見た我々は「アメリカ人は怒っている!」と思ってしまう。
だが、今では米国には日系の自動車会社に勤めるアメリカ人もたくさんいる。その人たちの意見は、デトロイトの住人とは全然違うはずだ。だがそういう時、彼らは取材されない。そのため、日本にいる我々には伝わってこない。
余談だが、アメリカでジャーナリストをする友人が、ITバブルのころ「最近スラム街に行っても(みんな金持ちになって)スラム街らしい画が取れない」と嘆いていた。
その時「報道とは真実を伝えるのでなく、我々の偏見や先入観を裏付けるように作られるのだな」と思った記憶がある。
その点、日本のマスコミや識者のこうしたあり方を否定してきた大前氏だけに本書では自ら足を運び、自ら考え、自分の言葉で伝えることの大切さを教えてくれる。
記事提供:藤井 孝一/ビジネス選書&サマリー
