年俸制の導入(1)
長引く不況の影響もあり、企業ではこれまでのような右肩上がりの成長が期待できなくなってきています。反面、上昇傾向にある固定費、なかでも人件費をなんとかできないものかとさまざまな方策を検討せざるをえなくなってきました。
賃金制度の中でもよく知られているのが「職能給制度」です。この制度では、人材の将来的な「成長」や「期待度」も含めた「保有能力」に対して評価をし、賃金を決定してきました。しかしこれは年功的な賃金に変質しがちで、個人の評価に対する賃金への連動が遅い「長期決済型」の制度であり、場合によっては評価と賃金とのアンバランスが生じるという欠点があります。
デフレ的な経営環境のもとで賃金の配分に厳しい目が向けられるようになると、このようなアンバランスは評価する上司にも社員本人にも強い不満の種ともなりかねません。
また、これまでの賃金の支払い形態では、本当の年収の実態は年度末に全体を合計してみないとわかりませんし、社員個々の責任や働きが賃金総額にどのように連動しているのか必ずしもわかりやすい仕組みとはいえないわけです。
では、現在盛んに導入されている典型的な「年俸制」とは一体どういうものなのでしょうか?
ここ数年で大企業を中心に成果主義賃金制度として「年俸制」を採用する企業の割合は一貫して上昇しており、その導入率は4割に達しています。
「年俸制」は、前年度の業績の評価などに基づき、労働者本人と上司との話し合いや交渉により、毎年の賃金額が決定され変動しうる点が特色といえます。賃金は毎年変動しうるので、年功賃金的な色彩は薄まることになります。
企業としては、いわゆる総額人件費管理という観点から賃金総額が毎年上昇してゆくのを避けるために年俸制を導入しようとすることもあるでしょう。
また、年俸制導入により、支払われる賃金は年俸額のみで、時間外割増賃金は支払われないといったイメージがあると思われがちですが、年俸制をとったからといって直ちに労働基準法上の割増賃金の規制が外れるわけではないのです。
年俸制導入に際しては、このように年俸制の持つメリット、デメリットをよく認識し慎重に導入を進め、納得性のある制度導入の目的とポリシーをしっかり定めること、実はここが一番重要なポイントなのです。
以下では、なにを目的とし、「なぜ」年俸制なのか、またその導入の際の留意点についてまとめていきたいと思います。
「年俸制」とは
ひとことでいえば、賃金の額を年単位で決める制度で、これから1年間の達成する仕事の責任・目標をあらかじめ本人と確認しておき、その成果を評価して報酬に結びつける方法です。
年俸制のポイントとしては、
- よりダイレクトに仕事の役割責任に対する発揮能力、さらには期待成果に対する業績や行動を評価して賃金を決める手法として有力な選択肢の一つ
- 役割責任・発揮能力の評価が早めに賞与・賃金のアップ・ダウンに連動する「短期決済型」の賃金を実現
- これから1年間の「仕事の責任と業績の期待値」とワンセットとなる形で年収の決定基準を明示し、その100パーセントあるいはその大部分の金額を決めてから月例賃金あるいは賞与を決定
など、以上のような特徴があると思われます。
なぜ、年俸制なのか?
現在会社が抱えている問題点は何なのか、なぜ賃金制度の再構築が必要になったのかを明確にすることが必要です。
一般に年俸制は目標管理制度、成果主義人事制度等とあいまって業績や貢献に見合ったダイナミックな報酬決定を行うことができるといったメリットがあります。昨今の厳しい経営環境の変化に対応していくためにも検討をしていく必要がある仕組みともいえます。
また、社員にとっては、「どのような仕事でどれだけの賃金が得られるのか」が大きな関心事になり、自分の任務の重要性と年間総賃金との関係を目の当たりにすることで、自分の仕事の成果に対して敏感にならざるをえなくなります。
このように年俸制は、給与決定の心理的なインパクトを利用して具体的な仕事の任務・目標に対する自覚を持たせ、事業への参画意識、広い経営的視野を持たせ、仕事への取組み態度を積極的に変えていこうとする報酬プログラムとなります。
しかし、先にも述べたように、ただ年俸制を導入すれば、社員が活性化しどんどん業績をあげてくれるかというとそうは簡単にはいかないものです。年俸制を導入する前段階として、経営計画・経営方針の徹底、個人個人の役割の明確化、評価制度の確立、社内コミュニケーションの改善等のさまざまな課題に取り組み、克服していく必要があるのです。

会社が求める「理想的な姿」とは何なのかを考える
では、具体的に年俸制を運用していくうえで、会社として何が必要要件となるのでしょうか?
次回、そのポイントをあげていきましょう。
社会保険労務士 米田聡美
[2003年11月 掲載]
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