新型インフルエンザの感染が拡がっています。企業にとっても、従業員が感染しないように努めることが重要ですが、感染又は感染の疑いがあるとき、労働基準法 等にどう対応したらよいのかが求められています。
今回は、人事労務管理上どう対応したらよいのかを法的根拠に基づきQ&A方式でまとめました。従業員と協力して新型インフルエンザに対応する際に参考にして下さい。
Q1
会社では、どのような感染予防策が必要ですか
A1
労働契約法は、使用者に労働者の安全への配慮を義務づけています。(法第5条)会社は、安全で快適な職場環境を整えなくてはなりません。新型インフルエンザの感染予防もその一環として取り組む必要があります。
職場での感染予防策として人との距離の保持、手洗い、咳エチケット、職場の清掃・消毒などが有効であるとされています。咳やくしゃみなど風邪の症状がある人にはマスクを着用して就業してもらうことも感染予防に一定の効果があります。感染の疑いが高い場合や感染した従業員には休んでもらってください。貼り紙やポスターなどを作成して、これらの予防策について従業員の理解と協力を得て進めてください。
会社が消毒液による除菌やマスクの着用等の対策を従業員に義務づける場合には、当然その費用は会社が負担すべきでしょう。
職場だけでの対策では十分ではありません。私生活でも職場における対策に準じた感染予防策を自主的に取ってもらうよう啓発してください。
Q2
従業員が発熱など新型インフルエンザと疑われる症状を訴えた場合、どのように対応すべきでしょうか
A2
38℃以上の発熱があり、咳や咽頭痛等の急性呼吸器症状がみられる場合には、新型インフルエンザに感染している可能性があります。新型インフルエンザに感染している人との接触歴がある場合なども感染を疑う上での参考になります。ただし、症状だけでは新型インフルエンザと季節性インフルエンザを見分けることはできないと言われています。
職場で感染の症状を訴えた場合と自宅から連絡があった場合、いずれも基本的には、発熱外来のある医療機関で受診をするよう勧めてください。発熱外来がわからないときは保健所などに設置されている発熱相談センターに連絡してどの医療機関に行けばよいか相談してください。会社としては管轄の保健所や発熱相談センター、近隣の発熱外来のある医療機関などの連絡先をあらかじめ控えておくとよいでしょう。
- 発熱患者の診療をしている医療機関がどこにあるかわからない方
⇒ 保健所などに設置されている発熱相談センターに電話して、どの医療機関にいけばよいか相談しましょう。 - 発熱患者の診療をしている近隣の医療機関がわかっている方
⇒ 発熱患者の診療をしている医療機関に電話をして、受診時間などを聞きましょう。 - 慢性疾患などがあってかかりつけの医師がいる方
⇒ かかりつけの医師に電話をして、受診時間などを聞きましょう。 - 妊娠している方
⇒ かかりつけの産科医師に電話をして、受診する医療機関の紹介を受けましょう。産科医師が紹介先の医師にあなたの診療情報を提供することがあります。 - 呼吸が苦しい、意識がもうろうとしているなど症状が重い方
⇒ なるべく早く入院施設のある医療機関を受診しましょう。必要なら救急車(119)を呼び、必ずインフルエンザの症状があることを伝えましょう。
医療機関を受診する前に、必ず電話で連絡をし、受診時間や入り口等を確認してください。受診するときは、マスクを着用し「咳エチケット」を心がけるとともに、極力公共の交通機関の利用を避けてください。
(資料出展:厚生労働省「新型インフルエンザに関するQ&A」平成21年8月31日版)
Q3
新型インフルエンザに感染した従業員を休業させる場合、賃金はどのように取り扱うべきでしょうか
A3
使用者の責に帰すべき事由により休業させる場合には、休業期間中、その従業員に平均賃金の60/100以上の手当を支払わなければなりません。(労働基準法第26条)従って休業が「使用者の責に帰すべき休業」なのかどうかが賃金(休業手当)支払いの判断基準になります。
厚生労働省の見解では、本人が感染し、医師等の指導に従い休業させる場合は、原則として「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当せず、休業手当の支払は必要ないとしています。
本人に発熱などの症状があるが、感染したかどうかわからない段階で、本人が自主的に休む場合は、通常の病欠と同じで休業手当の支払いは必要ありません。年次有給休暇を取得しない、または取得できない場合は、一般に就業規則等の定めるところにより賃金の欠勤控除という取り扱いになります。ただし、感染したかわからないものの、発熱37度以上など一定の症状があるのみをもって一律に休業させる場合は、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し、休業手当を支払わなければなりません。
感染者の近くで就労していた従業員について濃厚接触者であることなどを理由に保健所の協力要請等により休業させる場合は、原則として「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当せず、休業手当の支払いは必要ありません。ただし、会社が自主的な判断で濃厚接触者を休業させる場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し、休業手当を支払わなければなりません。
家族が感染した従業員についても同様に考えます。保健所の協力要請等により当該従業員を休業させる場合は、休業手当の支払いは必要なく、会社が自主的な判断で休業させる場合には、休業手当の支払いが必要です。
休業期間中における休業手当の支払いの要否(まとめ)
| 感染の状態 | 休業手当支払いの要否 | |
|---|---|---|
| 本人が感染 | 医師等の指導に従い休業させる場合は、必要なし | 医師や保健所の指導や協力要請の範囲を超えて休業させる場合は、必要あり |
| 本人に発熱などの症状があるが感染は未確認 | 本人が自主的に休む場合は、通常の病欠と同じで、必要なし | 発熱37度以上など一定の症状があることにより一律に休業させる場合は、必要あり |
| 感染者の近くで就労 | 保健所による協力要請等により、休業させる場合は、必要なし | 保健所による協力要請等の範囲を超えて、または使用者が自主的に休業させる場合は、必要あり |
| 家族が感染 | 保健所による協力要請等により、休業させる場合は、必要なし | 保健所による協力要請等の範囲を超えて、または使用者が自主的に休業させる場合は、必要あり |
(参考)新型インフルエンザに関連して労働者を休業させる場合の労働基準法上の問題に関するQ&A
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/20.html
Q4
新型インフルエンザに感染している疑いのある従業員について一律に年次有給休暇(年休)を取得したものとして取り扱うことは問題ありますか
A4
年休の取得は、労使協定による計画的付与(労働基準法第39条第5項)を行う場合を除き、従業員の意思(請求)に基づくものでなければならず、会社の都合で取得したものと取り扱うことはできません。
Q5
従業員は休業期間中に年次有給休暇(年休)を取得することはできますか
A5

会社が新型インフルエンザに感染した者等を休業させるとその期間中は、従業員は労働を免除されたことになりますので、休業命令が発せられた日以降は、年休を請求する余地はありません。年休を与える義務はありませんが、会社が任意に従業員の請求に基づき年休を与えることは差し支えないです。
休業期間中であっても休業命令が発せられる前に請求していた年休や労使協定による計画的付与の年休については、以下の育児休業期間中の年休付与に関する通達に照らすと、当該日に年休を取得したものと解すべきでしょう。実務的には休業期間中であっても年休取得の請求に応じるのが望ましいと考えます。
年次有給休暇は、労働義務のある日についてのみ請求できるものであるから、育児休業申出後には、育児休業期間中の日について年次有給休暇を請求する余地はないこと。また、育児休業申出前に育児休業期間中の日について時季指定や労使協定に基づく計画付与が行われた場合には、当該日には年次有給休暇を取得したものと解され、当該日に係る賃金支払日については、使用者に所要の賃金支払の義務が生じるものであること。(平3.12.20基発712号)
Q6
新型インフルエンザに感染している従業員が出社を申し出てきた場合は、就業させても構いませんか
A6
仕事が繁忙であるなどの理由で感染したものの症状が軽微な従業員が出社を申し出ることが考えられます。労働安全衛生法第68条により、会社は原則として「伝染性の疾病(その他の疾病で、厚生労働省令で定めるもの)」にかかった従業員の就業を禁止なければなりませんので、少なくとも医師等が指導する期間は自宅で静養させてください。
社会保険労務士 金子賢一
[2009年10月8日 掲載]
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