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第5回 高年齢者の賃金の決定方法

今回は、60歳から65歳の雇用延長が義務づけられた現在において、定年延長や継続雇用を導入しながら効率的な経営(労務費面)を達成するためには、どうすればよいかを考えていきます。

高年齢者の就業意欲をはじめとする個人の事情は多様となっていますが、60歳に到達した高年齢者は労働条件を変更した上で、60歳到達時の60~70%程度に賃金を低く設定する手法が一般的に行われています。データを調査しても、高年齢者の平均的な処遇・収入面の希望もこのあたりにあるようです。
後述しますが、高年齢者は賃金を低く設定しても「在職老齢年金」や「高年齢雇用継続給付金」を受給できるので、本人の収入はそれほど減少しないという側面があることをご存知でしょうか?
また、本人のために賃金を高く設定しても、公的な給付金がカットされることになってしまい、手取額があまり増えないということにもなりかねませんので、注意が必要です。
高年齢者の希望と会社の人件費抑制のバランスを上手くとり、賃金設計をすることが重要なテーマになっているのです。
高年齢者の納得のいく処遇を提供しながら、在職老齢年金や高年齢雇用継続給付金等の公的給付を組み合わせることで会社にとっても、効率的な賃金設計を行うことが可能になります。

【高年齢者の収入内訳の変更】

  • 高年齢者の賃金設計に入る前に公的給付について確認していきましょう。
  • 賃金設計の前提として、公的年金の支給の仕組み、それに伴う併給調整の理解が必要なります。

1. 在職老齢年金とは・・・

  • 在職老齢年金とは、厚生年金の受給者が、社会保険に加入しながら勤務を継続し、賃金を受けている場合に、賃金の額に応じて、受給できる年金額が調整される仕組みのことです。
  • 賃金の額に応じて年金受給額が調整されると書きましたが、以下の計算式により調整されます。
  1. 総報酬月額相当額≦48万円 かつ 基本月額≦28万円
    支給停止額=(総報酬月額相当額+基本月額-28万円)×1/2
  2. 総報酬月額相当額≦48万円 かつ 基本月額>28万円 支給停止額=総報酬月額相当額×1/2
  3. 総報酬月額相当額>48万円、かつ 基本月額≦28万円以下
    支給停止額=(48万円+基本月額-28万円)×1/2+(総報酬月額相当額-48万円)
  4. 総報酬月額相当額>48万円、かつ 基本月額>28万円
    支給停止額=(48万円×1/2)+(総報酬月額相当額-48万円)

(注)用語の意味

  • 「総報酬月額相当額」=その月の標準報酬月額+その月以前1年間の標準賞与額総額/12
  • 「基本月額」=年金額(加給年金を除く)/12

2. 実務上の在職老齢年金では・・

上記で記載した計算式ですが、実務上は(2)と(4)で示した計算式は考慮する必要はないと考えられます。年金の月額が「28万円を超過する」というケースは考えにくいためです。(厚生年金額336万円)

また、(3)についても実務においてはほとんど使用しないと考えられます。総報酬月額が48万円を超過するという場合は、実際にありそうです。しかしながら、実務的には再雇用制度によって賃金を引き下げるということが前提ですから、総報酬月額相当額が48万円を超過するというケースは、60歳以後も賃金を引き下げない場合ではないでしょうか?つまり、この場合も想定しなくても良いのではないかと考えます。

つまり、(1)の計算式が残り、ひとつだけ計算式を把握しておけば実務上は事足りるということになります。

総報酬月額相当額≦48万円 かつ 基本月額≦28万円
支給停止額=(総報酬月額相当額+基本月額-28万円)×1/2

以下、事例を挙げて計算してみます。

【事例(1)】
年金額:132万円
総報酬月額相当額:30万円
年金月額=11万円(132万円/12)
年金受給額=11万円-(30万円+11万円-28万円)/2=45,000円

【事例(2)】
年金額:120万円
総報酬月額相当額:24万円
年金月額=10万円(120万円/12)
年金受給額=10万円=(24万円+10万円-28万円)/2=70,000円

3. 高年齢雇用継続基本給付金とは・・・

高年齢雇用継続給付付金とは、60歳以後も継続して雇用保険に加入し、勤務している場合、賃金の低下に応じて給付金が受給できる制度です。
ここでは、計算式は省略します。

4. 併給調整

実務上で、在職老齢年金と高年齢雇用継続給付は、両方を受給するケースがほとんどであると考えられます。したがって、併給により生じる調整計算を確認しておきましょう。

高年齢雇用継続給付と在職老齢年金を併給する場合、在職老齢年金による支給停止とは別に、さらに年金から支給停止されることになります。

高年齢雇用継続給付は賃金月額が60歳到達時賃金の61%以下の場合は、賃金月額の15%となり、計算自体は難しくないですが、在職老齢年金との併給調整も標準報酬月額が60歳到達時賃金の61%以下の場合は、標準報酬月額の6%と簡単です。つまり、先ほど計算した在職老齢年金による支給停止後の年金受給額(月額)から、標準報酬月額の6%を差し引けばよいのです。

先ほどの事例によって計算してみましょう。
先ほどは在職老齢年金のみの計算事例だったので、総報酬月額相当額のうちの標準報酬月額と「直近1年間の標準賞与総額の1ヶ月相当額」を分けていませんでした。
今回はそれも設定に加え、両事例ともに60歳到達時点を40万円とします。

【事例(1)】
年金額:132万円
総報酬月額相当額30万円(内標準報酬月額を24万円とする)
年金月額=11万円(132万円/12)
年金受給額=11万円-(30万円+11万円-28万円)/2=45,000円
併給調整額=24万円×6%=14,400円
併給調整後の年金受給額(月額)=45,000円-14,000円=30,600円

【事例(2)】
年金額:120万円
総報酬月額相当額:24万円(内標準報酬月額20万円とする)
年金月額=10万円(120万円/12)
年金受給額=10万円-(24万円+10万円-28万円)/2=70,000円
併給調整額=20万円×6%=12,000円
併給調整後の年金受給額(月額)=70,000円-12,000円=58,000円

先ほどの計算との受給額の結果の違いについて確認してください。

上記を踏まえ、次回は高年齢者の賃金設計の具体例、高年齢者に関する助成金の紹介をさせて頂きます。

社会保険労務士・ファイナンシャル・プランナー 成岡 英律
[2006年8月24日 掲載]